「告白しないのかィ?」
与えられた自室に、沖田隊長がいきなりやって来た。
唐突に言われた言葉はとても衝撃的で、それでいて考えさせられるものだった。
「告白、ですか……」
「おう」
「したところで、脈がありますかね……」
「脈のあるなしじゃないんでィ。お前の気持ちを伝えなくていいのかって事だ」
その一言がずっしりと重く圧し掛かってきた。
近藤さんは、お妙ではなく他の人を好きになったと言っていた。
もともと、この恋は実る事なんて考えていなくて。
ならばこの気持ちの行きつく先はどこなのか、そんな事ずっと分からなかった。
告白をして、気持ちよくフラれる事が、もしかしたら一種の昇華方法なのかもしれない。
おそらくだけれども、告白をして少しの間は気まずいかもしれないけれど、近藤さんのことだから、いつかは普段通りに戻るだろう。
どちらにも揺れる私の心を見透かしているかのように、沖田隊長の目がすっと細められた。
これはやや怒っている時の顔だな、と、妙に冴えた頭で思う。
「最近のお前は、いつも情けねェ面してやがる。つまらねェんでさァ」
「つまらないって……」
「ビシッと決めやがれ」
頭にチョップを食らう。
思いの外痛くて、擦っていたら、ふふんと鼻で笑われた。
痛がっている私を見て、喜んでいる。
「でも……」
「なんでィ」
「……笑いません?」
「ああ」
「……私、人生でした事ないんです……その、告白というものを……」
「自慢か?」
「された事もないです」
「……そうかィ」
可哀相なものを見るような、でも笑いたいのを堪えているような顔で、沖田隊長は私を見ていた。
私と言えば穴があったら入りたい心境だった。なんでこんな事を言わなくちゃいけないのだ。
「なら俺で練習すればいいでさァ」
「え?!」
「俺を近藤さんだと思って言ってみな」
思わず正座になってしまう。
まだ沖田隊長は沖田隊長のままだ。
必死に、今目の前にいるのは近藤さんだと思い込むようにする。
だんだんと、部屋の景観がぼやけていって、沖田隊長の姿も歪んでくる。
すると、眼前には近藤さんが真剣な顔をして座っていた。
どくん、どくんと心臓が大きな音をたてて血を送る。
喉が狭くなって、やけに渇く。まるで、喉の粘膜がひっついてしまったようだ。
頬に熱が集まって、目を合わせられなくて、あちこちに視線を飛ばしてしまう。
「こ、近藤さん……」
「ん?」
「その……あの……ですね……」
言うんだ、思いの丈を。
「……私、近藤さんが――大好きです」
溜めに溜めて言ってしまった。
はあ、と大きく息を吐き出すと、目の前の近藤さんは沖田隊長に戻った。
がたん、と後ろ側で物音がした。
沖田隊長が、しまったという顔をして、私も振り返る。
そこにいたのは、いささか顔色を悪くしながらも、驚いた表情を浮かべている近藤さんだった。
私は一瞬、何が起こったか分からなくて、ぽかん、としてしまった。
「近藤さん! これは、違うんでさァ」
「いや、その、なんだ。邪魔して悪かったな」
「近藤さん!」
彼は、そう言って強く障子を閉めて行ってしまう。
私は何がなんだか分からなくて、立ったままの沖田隊長を見上げていた。
「……まずいところ見られちまった」
「え?」
「あの人きっと、が俺に好きだって言ったと思っていやがる」
「ええ?!」
私も立ち上がり、部屋を勢いで出て行く。
廊下を曲がればすぐに近藤さんに追いついた。
「近藤さん!」
「……か」
「違うんです、あれは……!」
肩で息をしながら、近藤さんの前に立つ。
近藤さんはまるで作り物のような笑顔で、私の肩に手を置いた。
「確かに組内での恋愛はあまり褒められたもんじゃないが、俺は応援するぞ」
「だから、そうじゃなくて……」
「ん?」
「あれは練習で、その、私の好きな人は……」
言え、言ってしまえ、と頭の中で自分の声がした。
でも、喉から声がそれ以上出る事はなくて。
眉尻を下げた近藤さんが、ぽんぽんと肩を叩く。
「いいんだよ、そんなに弁解しなくたって。誰にも言ったりしないから」
じゃあな、と近藤さんが行ってしまう。
追いかけたい、追いかけて、あなたが好きだと言えばいいだけなのに。
足はまるで根を張ってしまったように動かない。
喉は変わらず声を出す事ができなくて、ただ涙ばかりが溢れるだけで。
どうして、こんな土壇場で、大事なところで、臆病風に吹かれるのか。
告白シミュレーション
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