鮮やかな青空が広がる。今日は午後からお休みだ。
お気に入りのお店で買ったお団子に、とっておきの玉露を淹れて、縁側でのんびりしようと決めていた。
最近色んな事があって、少し一人でゆっくり考える時間が欲しかった。

近藤さんへの気持ちは、日に日に大きくなる一方で。
お妙以外に相談できる人もいなくて、ぐるぐると回る気持ちは積もっていくばかり。
彼女が言うには、近藤さんは最近、彼女のお店に行く回数がぐっと減ったらしい。
それに、お店に来てもぼーっとするばかりで、話しても真選組の事ばかりで
気にしてみると、ちょくちょく私の話もしたりするらしい。

期待してしまいたい気持ちもある。
でも、期待は所詮期待でしかなくて、それが現実になるのかどうかは、誰にも分からなくて。
それでも、お妙は意味深に笑うだけなのだ。

近藤さんの顔が、頭の中でずっと笑っている。
どうしようもなくなって、私は後ろに倒れ込んだ。
映るのは天井の木目と近藤さんの顔。


「よっ!」

「……え?」

「どうした?」

「ああ! えっと、近藤さん?!」

「おう」


それは私の夢でも妄想でもなくて、本物の彼だった。
慌てて起き上がると、普段着の近藤さんが私の隣に座るところで
ぽかんとしたまま、私はその様子を眺めていた。


は確か、今日は午後から休みだったよな」

「はい……」

「出かけたりしないのか?」

「今日は、ここでゆっくりしようと思って……」

「ああ、だから茶と団子があるのか」

「……はい」

「俺は一日非番でな」

「そうだったんですか……」

「あ、興味ない?」


だよなー、と悲しげに笑う彼に、私はそんな事ないです! と手を振った。


「そんな必死にならなくても分かるよ。冗談だって」

「近藤さん……」

「なあ、団子もらってもいい?」

「あ、はい」


もともと一人で食べるつもりじゃなくて、余ったら誰かにあげるつもりだったので、本数は多めにある。
その山を見てまた笑って「これ一人で食べるつもりだったのか?」と言う近藤さんに、また慌ててフォローを入れる羽目になった。

頬いっぱいにもぐもぐと咀嚼している様は、荒くれ者達を束ねているようには見えなくて
そんな事を思いながら横顔を見ていたら、口元にたれがついていた。
それを指先で拭って、いつものくせでぺろりと舐めて綺麗にしてしまった。


「え、ちょ、さん?! 何しちゃってんのォォォォォォ?」

「え、あ、すみません! 汚いですよね!?」

「い、いや、そういう事じゃなくて……ぐっ!」

「近藤さん!?」


喉に団子を詰まらせた彼に、その場にあった湯呑を渡す。
がっと勢いよくそれを飲んで、はあはあと息をする近藤さん。


「だ、大丈夫ですか?」

「う、うん……」


それから、私の湯呑を見ると、固まって、たちまち顔を赤くした。
つられて私の頬も赤くなる。今気がついた、間接キスだ。


「あ、えっと、その、私は……気にしてないですから……」

「いや、なんだ、ごめん、な?」


謝られた事に、胸がずきんと音をたてた。
嫌なんかじゃないのに、むしろ嬉しかったのに。
でもそれを言って変に思われるのも、とても困ってしまう。
だから、私は曖昧に笑って、前を向いた。
それが許しだと思ったのか、近藤さんも落ち着いて前を向く。

それからは、他愛もない話をした。
最近流行っている食べ物の話、映画、芸能人、本当になんでもない話ばかりをした。
共感する事が多くて驚きだった。同じところで笑い、それにまたふたりで肩を揺らしてくすくすと笑い合う。
お団子は結局、お昼を食べていなかった近藤さんのお腹の中に消えてしまった。
時々お茶を注ぎに行く以外は、ずっとふたりで話し込んでいた。

気がつけば、空の色は濃いオレンジ色になり、カラスの鳴き声が聞こえる時間になっていた。
それでも私達は話す事を止めないでいた。

知らなかった。ただ、同じ空間にいる事がこんなにも幸せだったなんて事。
人は、人を好きになればなる程、欲張りになっていく。もっと、もっと先へと。
でも、こうして何気ない時間を過ごせる幸せに気がつくと、こんなにも心が満たされるという事を、この人が教えてくれた。
近藤さんは、本当にたくさんの事を私に教えてくれる。それだけでも、この人を好きになった甲斐があったと思う。


「……私、ここにいられて、本当に幸せです」


たとえば、この居場所があなたの隣じゃないとしても、それでも同じ空間を共有できるだけで、心の底からそう感じる。

急な発言に近藤さんはきょとんとしている。そんな彼を見て私は軽く笑った。
それから、本当に嬉しそうに笑って


がそう思ってくれるんなら、俺も幸せだな」












同じ空間にいるということ










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