とあるお偉方の護衛の任務は、滞りなく終わった。
その人が一度キャバクラなるものに行ってみたいと言い出したのが、始まりだった。
その言葉を聞いた近藤さんは、目を輝かせてある店を推した。
もちろんそれは、お妙が働いているスナックすまいるである。
「! お妙さんに都合がいいか聞いてくれ!」
「……はい」
連絡を取れば、今日は特に大口の客も来る予定がないとの事だった。
隊士数人ならば大丈夫だろうと、返答をもらう。
「近藤さん、大丈夫だそうです」
「そうか! なら決まりだな」
笑顔で次の指示をする近藤さん。
私はその後ろについて行く事しかできない。
煌びやかな空間。
隊士数人が出入口や、お偉方の座る席の周りを囲む。
そんな中、私だけが隊服を着ていなかった。
それは数時間前に遡る。
店に着いてすぐお妙に、バックヤードに連れて行かれた。
そこで渡されたのは、流行の着物。
「……一体、どういう事かな」
「今日出勤予定だった子が急に休んじゃったのよ。元々ぎりぎりの人数だったんだけど、足りなくなっちゃって」
「それとこれとどういう繋がりが……」
「それで、にピンチヒッターを頼みたいの」
お給料も出すし、近藤さんや土方さんには許可は取ってるわ、とにっこりされた。
その言葉に、返す言葉がなかった。
結局断る事もできなくて、私は着物に袖を通した。
慣れない化粧もされて、お妙の後についていく。
席にはお偉方と近藤さんに土方さんがいた。
お妙や他の女の子を歓迎してから、私を見て二人が固まる。
ああ、やっぱりそういう反応だよな、と思って私はやけになりたい気分になる。
お妙が近藤さんとお偉方の間に入る。
私は一番端で、いつでもサポートできるように体勢を整えていた。
***
時間は過ぎ、お酒も進み、明るい雰囲気が場を盛り上げていた。
ただひとつ、胸を突き刺す痛みの原因があった。
近藤さんが全く私の方を見ないのだ。それどころか、話しかけすらしない。
土方さんですら気を遣ってちょくちょく話しかけてきてくれるのに、どういう事だ。
イライラが募っていく。すると、不思議な事に普段はあまり飲めないお酒が、するすると喉を通るのだ。
「おい、お前飲み過ぎじゃねェか?」
「うっひゃいですよ、ひしかたさん」
「うっさい……!?」
心臓がばくばくと血液を運ぶ。頬が熱い。照明がやたらとキラキラ輝いて見える。
お妙の方を向いている、近藤さんの後頭部が目に入った。
どうして、そっちばっかり見てるの。
私の方を見てくれたって、いいじゃないですか。
そんなに、私はどうでもいい存在なんですか。
目の前のグラスに入った甘いカクテルを飲み干す。
それから立ち上がって、止めようとした土方さんの手を視界の端で見てから、私は近藤さんの米神を掴んでいた。
ぐるりと、向きを変える。
「いだっ?!」
「ほんひょうひゃん!」
「え、え、……?」
「こっひ、見へ!」
潤んだ視界が、近藤さんの驚いた顔でいっぱいになる。
お酒のせいかその頬は、ほんのり桃色だ。
「おひゃえびゃっか、見ひゃいや!」
「えーっと、そうとう酔ってる?」
「酔ってらい!」
ぶわっと、熱い膜が目に張って、それは大粒の涙になってぼろぼろと落ちていく。
さらに驚いた顔の近藤さんが、慌てて立ち上がり、それから
ぎゅっと、抱き締められていた。
「大丈夫だから、な?」
「ほん、ひょうひゃん……」
目を見開いている土方さんの顔とか、面白そうなものを見つけたようなお妙の顔とか全部がもうどうでもよくて
このまま時間が止まればいいのに、と、心底思った。
こっちを見て
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