あなたの色々な顔を、ずっと見ていたいと思う。
笑った顔、喜ぶ顔、はしゃぐ顔。怒った顔や悲しい顔は、あまり見たくないかもしれない。
できれば、いつか私にだけしてくれるような表情があればいいな、って思う。

お風呂上りに、火照った体を冷ますために縁側でお茶を飲んでいた。
明日は非番で何をしよう、どこにでかけよう、なんて考えていて。
後ろから近づく足音に気がついた時、それはとても近くに来ていた。


「お、じゃないか」

「近藤さん」

「風呂上か?」

「はい。近藤さんは?」

「書類の途中。ちょっと息抜きにな」


そう言って、当たり前のように隣に座る。
たったそれだけの事なのに、心臓が跳ね上がった。


「そう言やあ、お妙さんとは連絡を取ってるのか?」

「……はい」

「羨ましいなァ」


うんうん、と頷きながら、そう言う。
涙目なのがバレないように、前を向いた。

私の気持ちを伝えたわけじゃないから、この行為は無神経なものなんかじゃなくて
きっと、好きな人の話をしたいだけなんだろう。
私だって、きっと堂々と話せたらそうしている。
だから、部下としてちゃんと話を聞かなくちゃいけない。
たとえ今にも死にそうなくらい、胸が痛くても。


「この前店に行った時な、お妙さん、の話をしていたぞ」

「そうなんですか?」

「ああ。いい部下をお持ちですね、ってな」


俺は鼻が高いぞ、と心底嬉しそうな顔で。
それは私が褒められたからなのか、それともお妙さんにそう言われた事が嬉しいのか。
捻くれた心は、どうせ後者だろうと思ってしまう。


「今度、お茶するんです、お妙さんと。その時、たくさん近藤さんのいいところ、話しておきますね」

「なんだか照れるなァ」

「私、近藤さんのいいところたくさん知ってるから。だから、きっとお妙さんの印象もよくなると思います」


そう、語り尽くせないくらい、あなたのいいところを私は知っている。
誰にでも優しいところ、何事にもまっすぐなところ、男気に溢れているところ
素直で実直なところ、不器用だけど不器用なりに頑張り屋さんなところ。
昔からそれは変わらなくて、気がついたらそんなあなたに惹かれていて。
些細なきっかけでその気持ちは溢れてしまった。


「でも俺のことばっかり喋るんじゃなくて、女同士で話したい事もあるだろ? せっかく友達になったんだ、仲を深めてこい」


な? と笑う顔が、あまりにも優しいから。
きっと、私にだけ向けてくれているんだと、そう思いたかった。

でも、そんな簡単に思い通りになんていく筈もなくて。
その後、近藤さんは嬉々としてお妙さんの話をしてくれた。
お妙さんがどれだけ綺麗か、どれだけ優しいか。
その言葉を認識する度に、心は悲鳴をあげるけれど、顔は笑顔のままだった。

お妙さんの話をする近藤さんの顔は、とても優しくて
ああ、この表情は、人が人を想う時の顔なんだろうな、って思った。
私も近藤さんの話を誰かにする時は、こんな顔をするんだろうか。
決して、私の話をする時にはこんな顔はしてくれないんだろう。

何も知らない、ひどい人。
こんなにも心は泣いているのに、それを言えない私もとても馬鹿だと思った。


「長々と話して悪かったな」

「いえ……」

「俺は部屋に戻るから」

「はい」


立ち上がり、自室へと続く廊下を歩き出す近藤さん。
不意に立ち止まって、こちらへと振り返る。


「話、聞いてくれてありがとな」


そう言った顔は、満面の笑みで。あまり見ない表情だった。










その笑顔独占できたら










笑顔も、何もかも私だけのものにできたら、どんなに幸せだろう。
私の隣でずっと笑ってくれていたら。
あなたが隣で笑ってくれるなら、私はなんだってできるのに。






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