大きな事件が解決して、今日の夜は宴会の予定だ。
見廻りを終えてから、女中さんに混じって準備を手伝っていた。


さん、こっちお願い!」

「はーい!」


年配の女中さんに呼ばれて、そちらに行けば、おつまみを作るように言われる。
材料は冷蔵庫の中にある物を、適当に使うように言われた。

大きな冷蔵庫の前で、ひとり首を捻る。


「何作ろう……」


とりあえず開けて、材料の確認をする。野菜も肉も魚も、色々と揃っていた。調味料も豊富だ。
少ないレパートリーから、おつまみになりそうな物をピックアップして、調理器具を手に取った。

台所に、いい匂いが立ちこめる。
時々、隊士のみんなが覗き込んで楽しみな顔を浮かべて去って行った。
期待に応えられるか分からないけれど、作り甲斐がある。

台にきんぴらごぼうを置くと、近藤さんが通りかかった。


「お、いい匂いがすると思ったら、が作ってたのか」

「はい。みんなの口に合うかどうか、保証できませんけど……」

「よし、なら俺が味見してやろう」


そう言って、近藤さんは手近にあった箸できんぴらを口に運んだ。
食感を残すために炒めすぎないよう気をつけたお蔭か、ぽりぽりと小気味いい音がする。
ドキドキしながら、近藤さんの感想を待つ。


「……うまい!」

「本当ですか?」

「ああ、これならいい嫁さんになるな!」


その言葉に、褒められた事すら忘れてしまいそうになる。
頬に熱が集まって、それを見られないように両手で頬を隠した。
その仕草に、近藤さんが不思議そうな顔をする。


「ん? どうした?」

「な、なんでもないです!」

「そうか? いや、これなら他のつまみも楽しみだな! 無理するなよ」


ぽんぽんと頭を撫でて、近藤さんは台所を後にした。

俄然、やる気が出てきた。
もっと美味しいと思ってもらうために、頑張ろうとフライパンを振った。


***


夜、一番広い部屋で宴会は始まった。
お酒に、私が気合を入れて作ったおつまみが並べられる。
隊士のみんなにも好評で、照れながら賛辞の言葉を受け入れていた。

私は端の方で、山崎さんとお酒を楽しんでいた。
明日も仕事だから、羽目を外さない程度に。
談笑しながら、ふと山崎さんの視線が後ろの方にいくのを見た。
どうしたんだろう、と振り返ると、とんでもないものが目に入った。


「がははは、今日は無礼講だー!」


酔って顔をほんのり赤くした近藤さんが、全裸になっていた。
全裸という事はもちろん、見えてはいけない物も見えてしまっているわけで
思わず手で目を覆い隠すけれど、気になってしまって指の隙間から覗いてしまう。

鍛えられた体を見てしまうと、体が熱くなる。
なるべく大事な所は見ないようにするけれど、どうしても視界に入ってしまう。
だんだん恥ずかしくなってきて、私は山崎さんに断りを入れてから、縁側に避難した。

月が藍色の空にぽかりと浮かんでいる。
頬を撫でる夜風が酒と先程の光景に浮かされた熱に、ちょうどよかった。


「ふう……」

「どうしたんでィ」

「沖田隊長」


私の隣に、よっこらしょっと腰かけるのは沖田隊長だった。
鬼嫁の一升瓶を抱えて、その頬は桃色に色づいていた。


「ちょっと、酔いを醒まそうと思って」

「そうは見えなかったけどなァ」

「え?」


お酒を一口呷ってから、隊長はニヤリとこちらを見て笑った。


「お前、近藤さんを見てから様子がおかしかったぜィ」

「……そんな事、ないですよ」

「あの人の裸なんざ、見慣れてるだろ?」


確かに、近藤さんが裸になるのは宴会の決まり事みたいなものだった。
今までも見た事はあったけれど、気持ちの変化というものは怖くて、たったそれだけの事なのに今まで平気だったものが、形を変える。


「なんか心境の変化でもあったのかィ?」

「……知ってて聞いてるんですか?」

「さあ、なんの事だかねェ」

「いじわるですね」


む、と軽く睨んでも、隊長はどこ吹く風である。


「……辛い思いをするかもしれねェぜ」

「……そんな事、分かってます」

「ま、せいぜい無駄な足掻きでもするこったな」


そう言って、隊長は縁側を離れた。
残された私は、月を見上げて、近藤さんの笑顔を思い浮かべていた。










君に振り回される自分がいる









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