耳に電子音が触れる。
温い布団の中からその音のもとへと腕を伸ばし止めた。
今日から、正真正銘、真選組の隊士だ。
時計の針を見れば予定通り、言われた起床時間よりも三十分早い。
初めて着る隊服や準備に手間取ったらと思っての行動だ。
手の中にあるそれを眺めていると、頬がだんだん緩んでくる。
布団がまるで、本当の綿菓子のように感じられる。
勢いよく布団から飛び出て、そそくさと畳み、ハンガーにかけておいたそれに手を掛けた。
隊服と一緒に支給されたワイシャツを着て、上着を羽織る。
形は山崎さん達と同じだ。内側についている釦を止め、最後に襟元を正した。
スラックスを履いて、ベルトを締める。そうして恭しく振り返れば、そこにあるのは、昨夜土方さんが持ってきてくれた刀。
「基本的には個人で購入するんだがな」
相変わらず紫煙を燻らせて、月を背負って土方さんは言った。
彼が持っていたのは、細身の刀で。何度か見かけた、近藤さんの虎鉄や土方さんの村麻紗より、多少細く見えて私は首を捻った。
「その刀、皆さんのよりも細いですね」
「刀身が細い分、軽くできてるんだ」
「そうなんですね。……丁寧に扱います」
「そんじょそこらの安物と一緒にするんじゃねェよ。刀身が細くたって、この刀は早々折れたりはしねェ」
ほらよ、と渡されたその刀は確かに想像していたよりも、軽くて。それでも確かに、人の命を奪える重さはあった。
濃紺の鞘には銀色の模様が描かれていて、持ち手には真紅の紐が巻かれていた。
「銃は持ってたが刀はなかったからな」
「そうですね……お手数おかけしてすみません」
「選んで買ったのは俺じゃねェ。近藤さんだ」
え? と声が出たのと同時に、刀の上にもうひとつ乗せられる。
それは、革製のホルスターだった。
「……銃、持ってていいんですか?」
その言葉に土方さんは仕方なさそうに「お前んとこの隊長と、局長から許可が下りてるんだよ」と呟いた。
どうしようもないくらいに湧き上がった温かさに、笑顔を隠す事ができなかった。
腰に装着したホルスターには、当たり前だけれども銃がある。
刀を持ち上げて、昨日は見なかった刀身を眺めるために、そっと鞘から抜き出した。
障子の隙間から差し込む朝日を受けた刀身が、煌めいて。
刹那、視界がブラックアウトする。
広がっていたのは、先程までの平和な部屋ではなく、見た事もない戦場で。
暗く曇天の空へと、ひっきりなしに叫び声が走っていく。
無数の叫び声だけが響いていて、その声の持ち主達は見当たらない。
人だったものと、まだ魂を持っている人達が戦う音。
「……こ、こは……」
やっと見つけた
背中を這うように、ひどく冷たく刺すような声がして。思わず振り向く。
そこはもう戦場でもなんでもない、変わらぬ平和な部屋の中だった。
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