屯所に戻ると、そこにいた隊士の人達に囲まれた。
無線連絡で、私が攘夷志士と接触した事を知って、心配してくれたみたいだ。


さん! 怪我は? 怪我してない?!」


私の肩を掴んで、山崎さんがすごい勢いで問いかける。
大丈夫ですよ、と笑ったら、心配したんだから! と他の隊士の人達と一緒に、そう言われた。
胸の奥が、妙にくすぐったくって、照れ臭くなってしまう。
俯いたまま「ありがとうございます」と呟いた。


「病院帰りの女に、何やってんでィ」


バゴン、と大きな音がして、いつの間にか目の前には沖田さんがいた。
その手にはハリセンが握られている。


「ったく……あんたも大概無茶しやすねィ」

「ははは……すみません」

「まあ無事ならいいや。にしても、俺も見てみたかったなァ」


あんたが大の男三人のしちまうところ、となんだか裏のありそうな笑顔で言われた。
「近藤さんにもうダメって言われたんで、無理ですよ」と言うと「じゃ、近藤さんがいない時にでも」と言われる。


「あ、そう言えばさんに関する書類に目を通してたら、さんの名字が分かったよ!」


地面から這い上がった山崎さんの鼻からは、血が流れていて。
大丈夫ですか? と着物の袖にあったチリ紙を渡した。
山崎さんはそれで鼻を拭くと、懐から一枚の書類を出した。


さんの持っていた銃、今から十年前に出回り始めた物らしいんだ。弾はなかったけど、銃のグリップ部分にって彫ってあったみたい」


そこから推測すると、さんの名字はになるんだけど、と、きっと「何か思い出した?」の意も含んでいるであろう、その口ぶりに
苦笑いで、そうなんですか、初耳です、と返した。


「病院疲れたでしょ? 見廻りの帰りにおいしい和菓子買って来たんだ、一緒に食べよう!」


山崎さんを筆頭に、隊士の皆にそう言われて。私はまた「ありがとうございます」と、今度は苦笑いじゃなくて
今できる精一杯の笑顔で応えた。
その後ろで、私の背中を見ながら近藤さんと土方さんが、何を話していたのかは、分からない。


「すっかり馴染んでるなァ」

「ったく……どいつこいつも浮かれ過ぎだ」


腕を組みながら、近藤は屯所の方へと歩いて行った一行を見て、そんな言葉をポツリと呟いた。
土方は眉間に皺を寄せつつ、同じ方向へと視線を動かしている。


「……これからどうすんだよ」

「ん?」

「あいつだよ……その、、のことだ」

「ああ……怪我もほとんど治ってきてるしなァ……」


どうしたもんか、と近藤は先刻の土方よろしく、眉間に皺を寄せて唸った。


「記憶喪失が本当なら、帰る場所なんて分からないだろ」

「それもそうなんだよなァ……。でも、女中にしたら……トシ、怒るだろ?」


その言葉に、土方は何の返答もしない。
ずいぶんと間を空けてから「まだ……信用ならねェ」と、何もない酸素の中に吐き出した紫煙と一緒に、呟いた。


「怪我が治ったから外にポイ、なんてしたくないんだがなァ」

「だからあんたは甘いんだよ」

「でもな」

「あ?」

「俺にはどうしても、が何かを企んでたり、隠してるって感じがしないんだよなァ」


確かにどことなく影はあるが、それは自分自身への不安からくるものだろう。
さっきの笑顔、見ただろ? と近藤は土方に問う。


「やましい事を考えてる奴は、あんな風に笑ったりしないと思うんだよ。俺は」


なんか、キラキラしてんもん、、と嬉しそうに話す近藤を見て、惚れたのか? と土方が唐突に聞いた。


「え?! いやいやいやいやっ! 俺にはお妙さんがっ……!」


その割には顔真っ赤だな、という言葉を、土方は呑み込んだ。





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