「検査の結果、あなたは人間ですね」
ただ、普通の人よりもかなり傷の治癒能力は高いみたいですね、と
診断結果の書類を捲りながら、先生はそう言う。
「……本当、ですか……?」
「ええ」
先程と打って変わって、すっきりとした笑顔で先生が、もう一度頷いてくれた。
嬉しいやらなんやらで、先程までの不安がどこ吹く風だった。
だんだん、悲観し過ぎていた事が、恥ずかしくなってきて。
どうやって近藤さん達に伝えよう、と思った矢先、待合室に続く扉が勢いよく開いた。
「結果はどうだった?!」
「おい近藤さん! ここは病院だぞ?!」
待ちきれなかったのか、そこには半分期待、半分不安な表情の近藤さんと
慌てた顔をした土方さんがいた。
「私、人間でした」
病院の外に出れば、来た時と変わらない晴天が出迎えてくれた。
土方さんは駐車場に止めたパトカーを取りに行く、と歩いて行き
私と近藤さんは、病院の前でそれを待っている。
「いやァ、それにしてもよかったな! ん? この場合よかったでいいのか?」
「さあ……。でも、よかったって気分なんで、よかったでいいと思います」
「そうか!」
がはは、と大きく笑う近藤さんの後ろにある太陽が、そのまま彼に被る。
「私、本当に嬉しかったです」
笑う彼に、そう言うと「何が?」ときょとんとされる。
この人は、自分の言った事をすぐに忘れてしまうのだろうか、と頭の隅で思う。
苦笑いを抑えながら、言葉を続けた。
「記憶もない、正体不明の私に、はだ! って断言してくれて……本当に、嬉しかったです」
不安だらけのこの状態で、その言葉が一筋の光のように感じられた。
近藤さんは、そ、そうかァ? と照れたように後頭部を掻く。
今更だけど、土方さんや沖田さん達が、この人を慕っている事や、あの大きな組織をまとめられる事ができる、という事がすごく納得できた。
この人は、それだけ大きな人なんだ。
和やかな空気の中に一瞬、冷気のような殺気を感じる。
それは刺す程に鋭く、また気づかれないように必死で。
近藤さんの顔を見たら、どうやら彼はこの殺気に気づいていないようで。
否、気づけないだろう。それだけ、この殺気はまだ小さい。
耳を澄ます。すると聞こえてくる、殺気の持ち主の足音と心音。
咄嗟に、近藤さんの横に体を滑り込ませる。
遠くの方に、賊のような恰好をした男三人が、こちらに走ってくるのが見えた。
きっと、あと十数秒もすれば、こちらに辿り着くだろう。
それよりも早く。
地面を蹴って、相手の三人組を目がけて走り出す。
「?!」
車の止まる音と、近藤さんが私を呼ぶ声がしたけれど、止まれなかった。
地面を蹴ると、体が勝手に宙に浮く。右足を高く掲げて、それから一人の脳天に踵を落とす。
男は地面に突っ伏した。
残る二人は急な私の出現に怯み、地面に落とした男をバネに、跳ね上がった私を見ている。
男達の間に落ちるよう体を捻り、中間地点まで落ちた刹那その場で回し蹴りを繰り出す。
二人の男の胸元辺りに、勢いよく私の両足がヒットして。
地面に着地した時にはもう、三人の男達は気を失っていた。
一体、どうしたんだろう。
そう思っていたら、後ろから近藤さんの声が聞こえた。
「! 大丈夫か?!」
「ああ、はい。無傷です」
「……いきなりどうしたんだよ」
何があった?! とパトカーから土方さんが降りてくる。
「その……殺気を感じて」
「殺気?」
「はい。小さな殺気だったんですけど、近藤さんに向いてて……」
「ありゃ、攘夷志士だ。大方、俺達を狙って来たんだろうな」
土方さんは、私がのした男達を見ながらそう言う。
完全にノックアウトされているその人達は、当分目を覚まさないだろう。
「……それで、近藤さんが危ないって思ったら、体が勝手に……」
ただ、その一心だった。
近藤さんが、この優しい人が傷ついてしまう事がとても恐ろしく感じて、気づけば走り出していた。
「ありがとう。……でもな」
「はい……」
「は女性で、しかもまだ怪我だってしてるんだ。何も俺だって丸腰じゃないんだし……」
本当に驚いたんだぞ、と言う彼に、ごめんなさい、としか言えなかった。
「いや、いいんだ。でも、今日みたいな事はこれっきりだからな?」
土方さんは黙ったまま、私と近藤さんのやり取りを見ていた。
それから、未だに白目を剥いたままの三人に手錠をかける。
「こいつら現行犯でしょっぴくぞ。おら、近藤さんも手伝ってくれ」
私も手伝います! と言ったら、ダメでしょ! と近藤さんに止められてしまった。
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