部屋に取り残された、私と銃。
袋から出して、見慣れていないのに懐かしさを感じるそれを眺めた。
案の定、弾は入っていなかった。もともと入っていたのかも分からないけれど。

頭で覚えていなくても、体がこの銃の感覚を覚えていた。
その証拠に、今の私は全く銃の知識がないにも関わらず、操作を易々とこなしている。
シリンダーを振り出して、弾倉を見る。
調査の際に掃除もしてくれたみたいで、教えられた年期の割りには、どこもかしこも綺麗だった。

そう言えば、目を覚ましてから、この部屋を出ていない事を思い出した。
途端に、湧き上がってくる好奇心。
障子に近づき、そっと横にずらす。入ってきた朝日に目の奥が痛んだけれど
次に目に入った景色に、好奇心はますます刺激された。


「立派な庭だなぁ」


この部屋だけでも、ずいぶん広いと思っていたのに、それ以上に広い庭が目の前に広がっていた。
庭のあちらこちらには、高くそびえる樹木。そのどれもがきちんと存在を主張しているのに、喧嘩をしていないのは、きちんと整えられているからだろう。
辺りを見回す。声がしていたから人がいるだろうと思ったけれど、誰もいない。
近藤さんが、朝の会議、と言っていたのを思い出す。


「ちょっとくらい探検しても……怒られないよね?」


そろりと起ち上がり、障子から体を出す。
ひゅるりと吹いた朝の風が、晒されている脚には少し厳しくて。
ようやく目に入った久しぶりに見る自分の体全体。
どれだけの大怪我か、やっと理解した。

幾重にも巻かれた手足の包帯。きっと、頭にも巻かれているんだろう。
動かせるものの、ギシギシと軋んで痛む箇所がいくつもある。
おまけに記憶喪失。何か厄介事でも抱えていたのだろうか。

きしきしと軋む廊下を、そっと一歩ずつ、確実に歩いていく。
どの部屋からも、人の気配は感じない。
そのせいか、だんだん歩き方が忍び足から普通の歩き方に変わっていく。

まっすぐな廊下を、たまに曲がってはまたまっすぐ歩く。
殆ど一本調子な造りなので、迷う事なんてないだろう。
そんな感じで、全く難しくない迷路を途中まで歩いていると、やっと人の気配を感じた。
それも、かなりの人数だ。

そっと、その部屋の障子に耳を近づける。


「……であるから、今日はとりあえずいつも通りの仕事で頼んだぞ」


その後に続く、男性達の声。
近藤さんの声だ、と思った次の瞬間に、思わず障子を開けてしまっていた。


「あ……」


一斉に、私に集まる視線。
どの人も皆、強そうな人達ばかりで。
ああ、そう言えばここは警察だったんだっけ、と呑気に考えていた。
すると、驚いている近藤さんと、とてつもない顔で私を睨んでいる土方さんと、面白そうに笑っている沖田さんがいた。


「「「おおおおお女ーっっ!?」」」

「ちょちょ、さん?! 何してんのー!?」

「あ、あの、すいません! ちょっと気になって……」

「じゃなくて! 絶対安静なのに、動いたらダメでしょ?!」

「近藤さん、俺と怒る所が違うのはなんでだ? テメェ! 勝手に屯所内をウロつくんじゃねェ!」


右からは近藤さん、左からは土方さん。別々の言葉を浴びせられる。
う、とも、え、とも言えない。


「沖田隊長! あの人一体何者ですか?!」

「屯所の前で倒れてた怪我人らしいぜ」

「局長はなんであんなに普通にしてられんですか?!」


その言葉に、近藤さんが「ん?」と反応する。


「なんで、ってなんで?」

「だってその人、かなりの上玉じゃないですか! 局長、別嬪の前じゃ固まるくせに!」


言われて、はた、と近藤さんは私をじっと見た。
正直、お世辞でも別嬪と言われて、ちょっと喜んでしまった自分がいる。


、さん……?」

「あ、私の方が近藤さんより年下だと思うので、呼び捨てでいいですよ」

「がはっ……!」


途端、近藤さんが顔を真っ赤にして仰け反った。
土方さんはそんな近藤さんに慌てて駆け寄り、彼に声をかける。

そう言えば、私はこれからどうしよう、と思いとりあえず目の前にいる人達に挨拶をする事を思いついた。


「えっと、皆さんに助けられた、と申します。よろしくお願いします」


勝手に挨拶してんじゃねえええええェェっ!! という土方さんの叫び声が木霊した。





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