近藤さんとの会話、近藤さんがしてくれた事を思い出して自然と笑顔が浮かんだ。
そんな私に不審げな目を向ける沖田さん。
「……近藤さんって、すごいお人好しですよね」
「……そうでさ。だから、俺や土方さんが疑ってかからなくちゃならねえ」
初めて聞く名前に反応しそうになるけれど、それを抑える。
いくら頭の中を捲っても、出てくるのは白紙のページばかりで。
自分自身のことなんて、どこにも載っていない。
「ごめんなさい、やっぱり自分のこと、分からないです」
どうしようもなくて、へらりと笑ってしまった。
すると、冷たい視線のまま丸くなっていた目に、一瞬隙が生まれる。
その隙は沖田さん本人ですら気がついていないみたいで、それを見取れた自分に驚いた。
「もし本当に、沖田さんの言う通り私が刺客だったら、その時は斬り殺してください」
まっすぐと、沖田さんの目を見て言った。
見開かれた目はすぐに眠たそうな目に戻り、一文字に結ばれていた口はニヤリと弧を描いた。
「面白い奴でさぁ。気に入ったぜ」
「ありがとうございます」
「今言った事、忘れるんじゃねえぞ。近藤さんと違って俺はお人好しじゃねえ」
「はい」
「本当にあんたが刺客だった時は、斬りますぜ」
腰にささっている刀に手をかけて笑う姿は様になっているな、とどこか違う事を考えていた。
さっきまでおろおろしていた山崎さんが、さらに慌てている。
なんだかその様子がおかしくて、噴き出してしまった。
私が笑うと、二人も顔を見合わせてそれから笑った。
三人で笑い合っていると、まるで昔からここにいたみたいな錯覚に陥る。
私はふと、先程沖田さんが口にした「土方さん」という人のことが気になった。
「そういえば、土方さんってどんな人なんですか?」
「なんでい、あんたあんな奴の事気になるんですかい?」
「土方さんはうちの副長だよ」
沖田さんは忌々しげな表情で、山崎さんは笑顔で教えてくれた。
思い出したように山崎さんが「銃を調べてるのも副長だよ」と。
「女の人なのに、あんな物騒な物持ってるから、俺驚いちゃった」
「そうですか……」
「そのうち戻ってくるから安心してよ」
ニコニコと山崎さんは言う。
銃の事もよく覚えていないけれど、なんとなく、起きてからの物足りなさはそれなのかな、と思った。
ただ、銃を私に戻しても平気なのだろうか、という考えは一瞬頭を過ぎった。
「ま、調べによっちゃあ戻せないかもしれないけどよ」
「ですよね……」
沖田さんが釘を刺すように、つけ加えた。
「話はそれだけでぃ。もう今日は寝な」
ひらひらと手を振って、沖田さんが言う。
「そうですね。……沖田さんって、優しいんですね」
そう言うと、襖に手を掛けていた沖田さんが振り返り、お盆と湯呑を片づけていた山崎さんが固まった。
何か聞いてはいけないものを聞いてしまったという顔で、山崎さんが私を見て
「見る目あるじゃねえかい」と沖田さんが、珍しいものを見るような表情で言った。
「騙されちゃダメだよ! この人、超がつくドSだから!!」
「人聞き悪い事言うんじゃねえやい」
また、どこからともなく出てきたハリセンで、山崎さんの頭を叩く。
大きなタンコブを作った山崎さんと、沖田さんが「じゃあな」と部屋を出て行った。
誰もいなくなった、しんとした部屋。
脳の奥に眠っていた睡魔が、また私を眠りへと誘った。
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