次に目が覚めると、手は布団の中に入れられていた。
温もりは自分のもので、近藤さんは部屋のどこを見渡してもいなかった。
それが当たり前なのに、寂しいと感じている自分がいて。
障子から漏れる光の色で、今が夕方だと悟る。
だいぶ寝ていたんだなと、呑気な事を考えていた。
すると、ぱたぱたとふたつの足音が聞こえてくる。
「まだ寝てるかな……って、あ」
障子がすっと動いて、二人の男の人が顔を覗かせた。
一人は黒髪の男の人、もう一人は明るい茶髪の男の人だった。
よくよく見れば、二人の制服の形が違った。茶髪の人の制服は、近藤さんと同じ形をしている。
黒髪の人はお盆を持っていて、そこには薬らしき物が置いてある。一瞬身構えてしまった。
「わー、目が覚めてよかったー!」
「え……」
第一印象とは打って変わって、人懐っこい笑顔で黒髪の人が近づいてきた。
思わず後ずさりすると、慌てて「大丈夫だよ」と横に座った。
「病人怖がらせてるんじゃねえやい」
そう言うと、どこからか取り出したハリセンで茶髪の人が、黒髪の人の頭をスパーンと叩いた。
あまりの躊躇のなさに、絶句してしまう。
「ほら見ろ、怖がってらあ」
「い、今のは沖田隊長のせいじゃ……」
「なんでい」
何でもないです、と彼はたんこぶを擦りながらテキパキと薬の準備をしている。
ハリセンをどこかにしまうと、彼の横に茶髪の人も座った。
彼は無遠慮に私をしげしげと眺めると、ふうとひとつ息を吐く。
「俺は沖田総悟ってんでぃ。んで、こっちが山崎」
「山崎退です。よろしくね」
「はい……」
布団の中で二人の顔を交互に見た。
慣れているのか、山崎さんはたんこぶを気にしていないようで、私に起き上がれるか聞いてきた。
包帯が巻かれている腕は、なんの障害もなく思った通りに動いた。
ゆっくりと布団から起き上がると、山崎さんが少し不思議そうな顔をしていた。
「お医者さんの話だと、動けるかどうか微妙だったんだけど……無理してない?」
「はい、大丈夫です」
それならいいや、と人好きしそうな笑顔になる。
近藤さんとは違うけれど、温かいそれにこちらも笑顔になった。
用意された薬と、白湯の入った湯呑を受け取る。
舌に触れると苦みを感じたけれど、喉元を過ぎるとそれも消え去った。
「ところで一体、あんた何者でぃ?」
沖田さんの口から紡がれた言葉は、棘のように胸へと刺さる。
それを知りたいのは、何よりも自分自身だ。
彼の質問に答える術を、今の私は持っていなくて。
答えられない私に、冷たい痛いくらいの視線が注がれる。
「分からないんです、自分のことが……」
「記憶喪失ってやつかい?」
「多分……」
ふぅん、と沖田さんは明らかに納得していない相槌を打つ。
相も変わらず冷たい視線が私を見ていた。
間に挟まれた山崎さんだけが、おろおろと私と沖田さんの間を行ったり来たりする。
「このご時勢、あんたみたいな刺客はたくさんいるんでぃ。どう信用しろっつうんだ?」
その言葉に、一度俯いてから答えた。
「そうですよね、私も、そう思います」
私の答えに、沖田さんが目を丸くした。
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