「お元気ですか……堅苦しい始まりじゃの」


ウォーターセブンに来て、早一ヵ月。
それは突然の訪れで。
住みたての家に、慣れない労働作業でヘトヘトになった体を引き摺って帰れば、ポストに一通の手紙。
何かの報告書かと思えば、差出人の名前はだった。


早いもので、もう一ヵ月が経ちましたね。そろそろ寂しくなった頃じゃない?


「なにが寂しいじゃ。お前さんが寂しいんじゃろうが」


文面を読んで、これをがあの笑顔で書いてるところを想像する。
きっと同じ物をルッチやカリファ達にも送っているんだろう。

けれど、正直な気持ちを言えば確かに
の笑顔が見られない事は、ほんの少しの隙間を心に与えた。
風が吹くたび、そこだけが冷たくなるのが分かって。


「……寂しいと言ったら会いに来てくれるのかのう」

「ほら、やっぱり寂しくなったでしょ?」


突然聞こえた声に、開けっ放しにしてあった窓に顔を向ける。
そこには黒い服を身に纏ったが、手をヒラヒラさせながら、窓のサンに腰かけていた。


「なっな……! 何でお前さんがここにおるんじゃ!」

「んー? 長官に視察行って来いって言われたついでに、寄ってみたんだ」


ちゃんと手紙、届いてたんだね。とワシの手の中にあるそれを見て、コロコロと嬉しそうに笑う。
ああ、やっぱりこの笑顔が見られるのと、見られないのでは、大いに違うなと。


「寄ったついでに、泊まっていってもいい?」

「なっ!」

「カリファの家がまだ分かんなくてさー、ダメ? ダメって言われる、今日野宿になっちゃうんだけど……」


両手を合わせて、そうお願いをするを無下に追い出す術を持ち合わせてはいなかった。


「……ワシはソファで寝るからの」

「それって泊まっていいって事?」

「ワシの今の朝は早いぞ!」

「ありがとー! じゃあ、明日は早起きして朝ご飯作るね!」


ウキウキと部屋の奥へと進むを横目に
汗まみれになった体をサッパリさせるため、風呂場へと向かう。
と言えば寝床に腰を下ろして、既にうとうとしていた。

サッと体を洗い、熱を逃がすために下だけ着衣してリビングに戻れば
完璧に夢の世界に連れて行かれたが、クッションを抱えて前後に揺れていた。


「相変わらず危なっかしいのう…」


そっと、自分よりも小さい体を抱けば、ピクリと動く。
しかしまた夢に引き戻され、ごにょごにょと聞き取り不可能な言葉を言って。
名前だけの寝室に置いてあるベッドに、そっとを寝かせてやる。
タオルケットをかけ、クシャクシャになった前髪を整えて、そっとその場を立ち去ろうとした。

クン、と何かに引っ張られる感覚。


「……カク?」

「どうしたんじゃ?」

「一緒に……」

「ん?」

「一緒に……寝よう」


不意をつかれて引かれる。
ぼすん、と耳元で音がして、気づけば目の前に寝顔の
ドキリと動悸が一瞬だけ早くなった事は、気づいていない事にしたい。


「こ、こら! 離すんじゃ!」

「んー……やだ」


またムニャムニャと訳の分からない事を言って、一人夢へと旅立つ。
身を捩っても、抜けようとしても、きつく縛られた首に巻きつく腕の拘束で、動きようにも動けなくて。

しょうがないのう、なんて言葉の上だけ
本当は、頬が緩んでいたのも自分で分かるくらい。

着衣しているのが下だけだから、なんて言い訳して
そっと完全なる夢の世界にいるの体を自分の体に寄せて。
こうやって寝るのも、何年ぶりなんだろうと
うとうとしかけた脳で考える頃には、もうと同じ世界に飛んでいた。





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