調査報告書を眺めて、また無意識のため息が口を突いて出た。
真実よりも真実らしい嘘で、塗り固められた自分を思い描き
またそれに哀愁を感じる自分も、本当の自分なのだろうかと
そう思っては、その思考を無理矢理遮断する。

裏切る行為が罪じゃないと、自分に無理矢理言い聞かせるようになって
それすらも意識せずにできるようになったのは、もうずいぶんと昔の事。


「カク」


書類を放り投げて、ソファに座り込んだ瞬間
そこを狙ったようにが、ワシの部屋へと足を踏み入れた。

は、滅多な事で動かないCP9の隠し札。
決して実力がない訳ではない。寧ろこのワシでさえ食われてしまうかもしれないくらいで
それなのに、いつも彼女からそんな雰囲気は見取れない。


「明日からだっけ、五年間の出張」

「出張じゃなんてそんな生易しいモンじゃないわい」

「はは、そうだね」


ウォーターセブンだっけ? と問われてそうだと返す
羨ましいな、だってすごい綺麗な街なんでしょ? と言われたから
ワシは、の方が羨ましいわい、と返す


「どうして? カク達の方が幾分か自由に動けるでしょ?」

「自由を間違った見方をしちゃいかん。これからの五年間、二重三重の拘束じゃよ」

「ふうん?」

「潜入は感情を残しちゃいかんからの。だから、ずっと嘘吐きでいないといかん」

「……悲しいね、すごく」

「……悲しいなんて、そんな気持ちとうに忘れたわい」


はきっと、CP9、ここにいる人間、もしくは政府の中で一番人間らしい思考を持っている。
だって、今も彼女はワシの横でポロポロと人殺しには似合わん、綺麗な涙を流しているから。


「せめてさ、嘘の感情でもいいから、ちゃんと人を好きにならないとダメだよ」


やっぱり泣きながらそう言うに、ワシは笑ってみせる。
すると、きょとんした後にが笑う。
その笑顔を見て、昔捨てた涙と言うものが湧き上がる感覚が
少しだけ、ほんの少しだけ鼻の奥をツンとさせた。

人間なんて、自分以外全ていらないものだとずっと思っていた。
たとえ「仲間」であるルッチやブルーノ達でも
いつ裏切るか分からない、もしかしたら自分が後手に回るかもしれない、と
そんな事をいつもいつも考えていた。
けれども、それでも。この場にそぐわない程、馬鹿みたいに真っ直ぐなと一緒にいるようになってからは
いつか裏切られる事を考えるより、今背中を任せる相手に
全ての信頼を預けてもいいのではと、思えるようになって。


は、優しいのう」

「そう? 優しくないよ、カクとかルッチ達にだけだよ」

「ワシだけじゃないのか……」


落ち込んだフリをすれば、慌てて弁解する。
きっとのそんなところが、ワシやルッチ達の殺気立つ何かを優しく穏やかに、包んでは消していくんだろう。
あのルッチでさえ、の前では大人しくなる。
のクローンでも作って、全世界にばら撒いた方がよっぽど世界平和に近いと思うのは、ワシだけなのだろうか。
もしくは、を神様にして崇めたりしてはどうだろうか。
真面目に考えては、阿呆らしいと思うけれど。


「寂しくなったら、会いに行ってあげる」

「寂しくなったら、会いに来るの間違いじゃろう?」


それでも、笑うを見ると
その笑顔がもっと続けばいいと、もっと見ていたいと思ってしまう辺り、自分はによっぽど支えられているんだと思う。





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