ことこと、と揺れるお湯を眺めて、私は今どうしてここにいるんだろう、と
呆けた頭でゆるゆると考えていた

私は、あの日路地裏で死ぬ筈だった
その運命を覆してくれたのは、五ェ門で
今の私を作り上げてくれたのは、紛れもなく皆で

だけど「今」の私は?

紫さんに醜く嫉妬して、大介に慰めてもらった心も、もうこんなにもぐちゃぐちゃで

ポタポタと落ちていく涙が、このまま流れ続ければ
少しは綺麗になれるだろうか


「……っ、ふ」


口元を押さえて、声が漏れないようにする
泣き虫になり過ぎた気がした

私一人が、落ち込んでいるわけにはいかない
乱暴に目元を擦って夕食作りを再開する

大丈夫。きっと、作り終える頃には、笑えている筈だから





「ご飯できたよ! 今日はメニュー変更してお鍋にしてみたよ」


大きな土鍋を持って、リビングに行けばルパンがその土鍋を受け取ってくれた


「こーんな大きな鍋持ってたら危ないだろぉ」

「あはは、ごめん。ありがと」


大丈夫、ほら、笑えてる
皆、作り笑いだって気づいてない

テーブルの真ん中に、ルパンがお鍋を置いて
私がその周りに皆の分のお椀を並べる


「あら、一つ足りないんじゃない?」

「あ、私なら味見してたらお腹いっぱいになっちゃったから。皆で食べて」


不二子姉さんが、五つしかないお椀を見てそう言った
私は、後片付けもあるし、と付け加えてまたキッチンへと向かおうとした


「なら、拙者は後で構わない」


その声に、驚いたのはきっと私だけじゃない

振り向けば、立ち上がっている五ェ門がいて
隣では、紫さんが困惑した顔で彼を見上げていた


「……五ェ門が食べなかったら、紫さんだって食べにくいでしょ? 本当に私、お腹空いてないから平気だよ」

「しかし」

「大丈夫だよ」


笑って扉を閉めた
扉の向こうで、じゃあ食べるか、なんて大介が無理している声が聞こえて

本当に、何をしているんだろう

頭を抱えてしゃがみ込んだ
いっそのこのまま、小さくなって消えてしまえばいいのに
そう思える程、今の自分は嫌で嫌でしかたなかった


「大丈夫?」


頭上の声に、反応せざるを得なかった





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