ただ広がる青の上に重なる水色と白
ときおり聞こえるカモメの声が、ここが海だという事を思い出させてくれる


「綺麗だね」

「ああ」


まだ、鼻の奥がつんとして
でも泣いた事で少しだけ、心の奥は軽くなった気がした


「帰ろっか。そろそろ夕食の準備もしなくちゃいけないし」

「そうだな。買い物は全部済んでるのか?」

「うん」


砂の擦れる音。私達は踵を返して、来た道を戻り始める
傾きかけている太陽を、もう一度だけ見るために振り返った
水面に反射した光が背中を押してくれた気がして
どうした? と声をかけてくれた大介に、笑顔で何でもないよと言えた


道を戻っていくと、だいぶ人も少なくなっていて
道も家も何もかもが、オレンジ色に染め上げられていた


「ここの地域は、夜になると大分冷え込むみたいだね」

「そうみたいだな」


吹く風に冷たさを覚えて、前を見る
すると、遠くの方から誰かが走ってくるのが見えた


!」

「五ェ門?」


五ェ門だと認識できる頃には、私は彼の腕の中にいた
隣に大介がいるにも関わらず、五ェ門は私を抱き締めていて
慌てて必死に体を離そうとした


「ちょ……! どうしたの、五ェ門! 大介もいるんだよ?」

「アジトのどこにもの姿がなく、心配して探しに来た」

「え? 大介と散歩してただけだよ?」


大介、言ってなかったの? と顔を上げれば、彼はさあな、と肩を竦めた

嬉しかった
私がいない事に気づいて、心配してここまで来てくれた事が
せっかくの時間に紫さんには悪いと思っても、頬が緩むのを抑えられなかった


「心配してくれて、ありがとう」


抱き締めてくれている五ェ門の背中に腕を回した
少しして、震えた五ェ門の声が聞こえる


「……すまない」


何に対する謝罪なのか、分からなかったけれど
その声があまりにも悲しく感じたから
私はただ、大丈夫だよ、としか返せなかった





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