アイスクリームを食べ終えて、私達はまた歩き出す
「どこか行きたい所でもあるか?」と大介が聞いてくれた


「海が見たいな」

「海?」

「うん。今のアジトに引っ越す時、見つけたんだ」


ここから近いのか? と聞かれて、うん。とだけ返す
曖昧な記憶を思い出して、大介の横に並んだ


舗装されていない、石の道を歩く
都会の中では見られないような、自然の物だけで造られた建物

窓からは紐に干された洗濯物が、たなびいている
行き交う子どもやたまに擦れ違う大人は皆、東洋人の顔つきをした私達を見て
にっこりと笑って、遠ざかっていく


「そう言えば、私って一体どこの国の出身なんだろう」

「いきなりどうした?」

「いや、なんとなく。今、この町の人達と擦れ違ってたら、私の故郷ってどこなんだろうなぁ、って思って」


以前に一度、記憶喪失になった時
思い出したのは、五ェ門と路地裏で出逢った瞬間からで
それより前の、いわゆる出生からそれまでの事は、一切思い出せなくて
ルパンにその事を聞いたら、その記憶はきっと一生思い出せないんだ、と教えられた

思い出したくないから、その記憶に私は蓋をしている訳で
でも、今の何も知らない私は、その記憶の蓋を開けてしまいたい、そう思っている


「お前がどこの誰だろうと、今のお前は俺達の仲間で……家族だ」

「家族?」

「ああ。俺にとっては仲間と同時に家族なんだよ」


くしゃくしゃと、私の頭を撫でた大介の目は、すごく、優しく見えて
ああ私はこの人に大切にされているんだな、と思えた

その顔に、五ェ門の顔が被って
胸の奥が誰かに掴まれたような感覚に陥る


「……きっと、大介に好きになってもらえる人は、幸せだろうね」


驚いた顔になる大介
なんだか、言ってはいけない事を言ってしまったような気がした


五ェ門のことを、好きになれば好きになる程
心の中で好きという感情以外の、あまり見せられないような気持ちが増えていって

今日だって、そうだった
あんな些細な事でも私は、五ェ門に選んで欲しかった
紫さんじゃなくて、私を

紫さんだって、五ェ門だって私を気遣って言ってくれた事くらい、分かってる
分かっていても、嫌だった

あたしを選んでくれない五ェ門
隣を譲ってくれない紫さん

何よりも、二人をそんな風に考えてしまっていた自分自身が一番、嫌だった


「……幸せかどうかなんて、自分の気持ち一つで変わるんだぞ」


振り出した雨を止ませるように、とびっきり甘い大介の声が響く
いつの間に、こんなに歩いたのだろう
もう目の前には海が広がっていた

青空が広がる、海
泣いていたのは空じゃなくて、私だった





NEXT