ふたりで市場を通り抜けて、町の中心部に躍り出た
昼間だという事と天気がいい事が重なって、たくさんの人で賑わっている
露店や色とりどりの花と風船、お菓子を持った子供達が駆け抜けていく
抜けるような青空が広がっていた


「あ、大介。あそこでアイスが売ってるよ」

「なんだ、食べたいのか?」

「うん。ダメ?」


指をさした方向には、カラフルなワゴンがある
ピンク色の帽子をかぶった女の人が、子供達にアイスを渡していた


「発明してる時とかは年相応だが、こういう所に来るとお前も子どもっぽくなるな」

「えーなにそれ」


笑う大介の腕を、軽く叩いた
彼はズボンのポケットから銀貨を数枚出すと、私の手の平に落とした


「ありがとう」


銀貨の感触を確かめるように、手の平を握り締める
振り返って、ワゴンの方へと歩き出した

近づくにつれ、子どもの多さに驚く
小さな子達の中に、場違いな感じのする私
見た目も違えば、身長も私の方がはるかに高い
チラリと周りの様子を窺えば、みんな私のことなんて気にしていなかった
手に持ったアイスクリームに夢中だ


「バニラのアイスクリーム、一つください」


帽子をかぶったお姉さんは、とびきりの笑顔で私から銀貨を受け取る
すぐに大きな丸いバニラアイスが乗ったコーンを渡された
「ありがとう」と言えばお姉さんも「ありがとうございました」と言う

我慢できずに、その場でかじりつく
冷たい甘さが広がって、周りの陽気に溶け出すように感じた


「バニラにしたのか」


いつの間にか、隣にまで来た大介がそう言う
口に入ったまま、まだ溶けていないバニラのせいで喋れない
返事の代わりに頷いた


「うまいか?」


そう聞いておきながら、大介は返事を待たずに
私がまだかじりついたままのアイスクリームに、顔を近づけた
刹那、大介の煙草の匂いが、バニラの香りにのってほんの少しだけ、鼻に届く


「甘いな」

「そりゃあ、バニラだもん」

「……少しは照れたりしねえのか?」

「別に照れたりしないよ」


五ェ門がこんなところ見たら、斬鉄剣抜いちゃうね

言おうとした言葉が、喉の奥に引っ掛かって
そのまま、ストンと体の中に落ちてしまう

急に黙った私を、大介は覗き込んできた


「どうした?」

「……五ェ門が」

「五ェ門がどうかしたのか?」

「……ううん、なんでもないよ」


首を振った
口の中のバニラは、もう溶けて消えていた





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