紫さんと入れ違いに、三人は部屋を後にする
心臓の鐘が少しだけ早くなるのを感じて
彼女は、ベッドの横に椅子を持ってくると、それに腰かけた
「具合は大丈夫ですか?」
「あ、はい……」
どこか、以前と違う雰囲気を持った紫さんは
ゆっくりと口を開く
「五ェ門様から、さんと五ェ門様の事を聞きました」
手の平が汗でじんわりとしたのが分かった
それがバレないように、かけられていたタオルケットを握る
「……それから、五ェ門様に婚約を解消して欲しいとも」
「どうして……」
「五ェ門様が愛しているのは、さんだけだと……そう言われました」
その瞬間、ようやくあの牢屋での出来事が夢じゃない事を知って
目の前で涙を溜めて、私を真っ直ぐと見る紫さん
何を言えばいいのか分からなくて、口を閉ざしてまう
「……本当は、薄々気づいていたんです」
「え……」
「だって五ェ門様、私と一緒にいても考えているのはあなたのことだった」
「……そんな事」
「それに、手紙が途絶えた頃も……丁度あなたが五ェ門様達と一緒にいるようになってからです」
初めて聞かされる事実に、耳を疑う
「きっとあの頃からもう、五ェ門様の中心にいたのはあなただと思うんです」
涙を堪えて私に微笑みかける紫さん
私の口からはポツリと、謝罪の言葉が落ちる
その言葉を聞いて、紫さんは顔を上げた
「謝らないで下さい」
「でも……私」
「正直に言うと、まだ許せない部分もあるんです。だけど……私が捕まった時でさえ冷静だった五ェ門様が、あんな風に我を忘れて取り乱したりする程、さんのことが大切なんだって…」
私の知らない五ェ門を見た紫さんが、そう話す
助けに来てくれた時の五ェ門は確か、泣いていた
きっと、それ以外にも私が見た事のない彼の表情がたくさんあったんだろう
紫さんは、それから何も言わない
私も変わらず黙ったままで。それでも、空気が少しずつ柔らかくなっていく
「……さんが」
不意に口を開いた紫さんの瞳から
とうとう涙が零れ落ちた
「私と、五ェ門様の幸せを願ってくれたように……私もさんと五ェ門様のことを、応援しなくちゃいけませんね」
「あれは……私が、勝手にした事で……」
「それでもきっと、私だったらさんみたいに身を引くなんて事、できなかったと思います」
それは私も同じだった
本当は五ェ門を諦める事をしたくなかった
だけど、自分と同じ気持ちを持った人だから
事実を知った時に、もしかしたら私以上に傷つく
そう思ったら、紫さんの笑顔を見ていられなくなった
ただ、それだけで
「これで五ェ門様を待つ事もなくなりました」
「紫さん……」
「おじいちゃんも、そろそろ帰って来いって言ってますし……最後に五ェ門様の姿が見られらただけで、もう心残りはありません」
「ごめんなさい」
「謝らないで下さい……その代わり……絶対に五ェ門様を幸せにして下さい」
私の背中を擦る彼女の手は、やっぱり温かくて
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