三人はホテルに入り、真っ先にレストランの厨房に向かった
そのレストランは名前こそ違うものの、確かに組織が所有しているもので
従業員やコックに止められるのも構わず、厨房の奥へと進んだ

そのうち、従業員やコックはルパン達が組織の事を認識している侵入者だと知ると
一般人の仮面を外し、組織の人間としてルパン達の行く手を阻んだ


「五ェ門! このアジトには地下牢がある! きっとそこにがいる筈だ!」

「ここは俺達で食い止めてやるから、テメェはさっさとを助けに行け!」


ルパンと次元が五ェ門の行く道を開けながら叫んだ
彼は静かに頷くと、颯爽とその間を走り抜けた

石で作られた、古風な牢屋は湿気が酷かった

あちらこちらで水が漏れ、決していい衛生状態とは言えなく
こんな所にが閉じ込められている、と思うと
五ェ門は眉間の皺を消す事が出来なかった

鳴り止まない警報
五ェ門が地下牢に侵入した事で、その場にもけたたましい音が鳴り響いていた

不意に、通路の奥で誰かが動いているのが見えた
目を凝らすとそれは、あのファイルに写っていた白髪の男
を攫った、組織の頭だという事に、五ェ門は気がつく

今にも斬ってしまいたい衝動を抑え、その背中を距離を保ちながら追いかける

男は一番奥の牢屋に入ると、その中にいる誰かに喋りかける


「どうして……あんな奴らが!」


その男の影になって、牢屋の中の人物が見えなかった
天井から鎖がぶら下がって、その先に白い小さな手が見える
他に、人がいる牢屋はない


「あなただけでも、ここから連れ出して……そしてまた組織を作ればいい!」


男の言葉で、ようやくその向こうにがいる事を察する
五ェ門は気配を消し、そっと男に近づくと
音もなくその背中を斬りつけた

ゆっくりと、倒れていく男の体

その男の体が、五ェ門の視界からフェードアウトした瞬間に見えた
捜し求めたの姿に、五ェ門は目を見開き声を失う

頭は項垂れ、その髪の長さは自分の知る長さではなくなっていた
天井から吊るされている手首は、痛々しい痣がぐるりと周っていた
服なんて、最早その役目を果たしておらず
布と化しているその隙間から覗く、無数の傷

彼女の足元には、小さな赤い水溜りが出来ていた

一歩近づいた、その時
の頭がじょじょに持ち上がる

顔にもある傷痕、そして涙の痕


……」

「……ごえ、もん?」


五ェ門を真っ直ぐに射抜くその瞳は同じなのに
の瞳は光を失っていた

これ以上傷つけないように、と
すぐに斬鉄剣で手錠を壊した
まるで人形のように崩れ落ちる、の肢体を五ェ門はそっと
それでも力強く抱き留めた


「……私、とうとうイカれちゃったのかな……」

、気を保て」

「……目、瞑って寝ちゃうとね……夢、見るんだ」

「夢?」

「う、ん……幸せな、夢」


虚ろな目で、五ェ門を見上げる
枯れた喉から、少しずつ声を絞り出す


「それから……隣にね……五ェ門が、いるの」

……」

「ねえ……私、ずっと……我慢してきたんだ」

「……ああ」

「やっと、夢の中で……触れら、れた……」


痛みを堪えるように、のろのろと持ち上がるの腕
その腕からは、絶えず血液が滴っていて

五ェ門はずっと、不安だった

もしかしたら、このは自分の弱い心が見せている幻影なのでは、と
自分に触れた瞬間、泡のように消えてしまうのでは、と

瞼を下ろすと、雫が落ちた


「夢の中なら、いいよね……?」


幻影でも、なんでもない本物のの体温を感じ
五ェ門は目を開いた
そこにいるのは、いつものように変わらない笑顔で五ェ門を見上げる


「本当は……こうやって、ずっと……抱き、締めてて……欲しいんだ」



「ご、えもん……愛して、るよ」

「拙者も、だけを愛している」


ようやく聞けた、彼女の本心

五ェ門の言葉を聞いて、は安心したように瞼を下ろした
寝息と、上下する胸元を見て五ェ門は安堵し、宝物を守るように、彼女を抱きかかえ
牢屋を後にした





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