足音の持ち主は、さっきいなくなった筈の白髪の男のものだった
牢屋を開けると近寄ってくる

頭を下げている私には、彼の靴先しか見えない


「どうして……あんな奴らが!」


私の顔を両手で掴むと、目を合わせようと視線を絡ませる
うっすらと男の白髪だけ、認識できた


「あなただけでも、ここから連れ出して……そしてまた組織を作ればいい!」


言っている言葉の意味が、理解できなくて
眉間に皺を寄せるだけしか、抵抗の意を示せなかった

ずっと、何か焦ったように喚く男は何かを弄っている
それは鍵の束のようで、金属の擦れる音が耳に響いた
音が痛みになって頭を襲う

後ろで人影が動いた気がした

刹那、私をずっと苦しめてきた男が、バタリと倒れ伏す

支えを失った頭は、カクンとまた下を向く
ここでは聞いた事のない靴音、と言うよりも足音

どこかで聞き慣れた、草履の音


顔を上げれば、目を瞑っていないのに


……」

「……ごえ、もん?」


とうとう、幻覚も見えるようになったのだろうか
瞬時に自由になった手首
崩れ落ちる私の体を、受け止めてくれた腕はとてもリアルで


「……私、とうとうイカれちゃったのかな……」

、気を保て」

「……目、瞑って寝ちゃうとね……夢、見るんだ」

「夢?」

「う、ん……幸せな、夢」


そこには、私の両親も、おじいちゃんもいて
振り返れば笑ってる皆がいる


「それから……隣にね……五ェ門が、いるの」

……」

「ねえ……私、ずっと……我慢してきたんだ」

「……ああ」

「やっと、夢の中で……触れら、れた……」


軋む腕を上げて、抱き締めてくれている五ェ門の頬に触れた
どうして、彼は泣いているのだろう

泣かないで


「夢の中なら、いいよね……?」


瞳を細めて笑うと、五ェ門が滲んで見えなくなった
だけど、手の平に感じる肌の感覚は消えなくて
ああ、なんて現実みたいな夢なんだろう


「本当は……こうやって、ずっと……抱き、締めてて……欲しいんだ」



「ご、えもん……愛して、るよ」

「拙者も、だけを愛している」


聞きたかった言葉
して欲しかった事

温かい腕に包まれて、ようやく眠りに就けるんだ





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