繰り返される行為に、私の体は次第に順応していく
痛みが来れば意識が遠のき、それが終わればまた覚醒して
だけど、その覚醒した時に襲ってくる痛みだけは
どうしても慣れなくて

目を瞑るとやっぱり辛いだけで
捕まってからどれくらい経ったのか、定かではないけれど
睡眠を取った、という記憶はほとんどなかった

鉄格子が動く音で、遠くなりかけていた意識が戻ってくる
見れば、相変わらず手に鞭を持つ白髪の男が私を見ていた


「まさか、一睡もしていないのですか?」

「……そんな事、あんたに関係ないでしょう」

「その口も相変わらずだ」


目の前に立ち、嬉しそうに笑う男を今すぐに殴りたかった
だけど、無情にも繋がれた手錠は頑丈で
到底私の力で壊せる物じゃなくて、それは希望すら湧かない程


「鞭ばかりではつまらないと思いまして、今日は新しいオモチャを用意しました」


鞭を自分の腰のベルトに差し込むと、後ろにでも隠し持っていたのだろうか
大きなハサミを、眼前でチラつかせる

ここにきて、初めて見せられる直接的な凶器に
沈んでいた心臓が、物凄い速さで引き上げられて
血流が早くなり、そして耳鳴りもし始めた


「……顔に傷でもつけるの?」

「いえ、あなたの顔は私の好みでしてね」


首筋にひんやりとした感触を覚える
恐怖で目を閉じると、その場所だけに神経が集中して


「おや……震えているんですか?」

「っうるさい……」


クツクツ、と喉の奥で笑う男
首筋を刃物ではない、別の物が這う
その気色悪さに、胃が空っぽなのも構わず嘔吐感が込み上げてきた

耳元でハサミの開く音がした


「いや……やめ、て……」

「今日はやけに素直ですねえ」


ジャキリ、
耳元で音が


「いやあああああああああっっっっ!!」


はあ、はあ、と大きく呼吸をする
痛みはない。ただ、心臓が狂っているのかと思う程早く動いていて
足元に、黒い塊


「何を怖がっているのですか? 髪の毛を切っただけじゃないですか」


ニヤニヤ、と顔を俯かせた私を覗き込んで、男はそう言い放つ


「耳でも切られると思いましたか?」


ジャキジャキと容赦なく髪を無残に切っていった
まるでオモチャの人形の髪のように、長い髪や短い髪が混じって床に落ちていく


「綺麗な髪もこれじゃあ台無しですねえ」


切り揃えられていない髪を、男は無理矢理引っ張り視界へと映り込ませた
朦朧とする意識に痛みだけがリアルに伝わる


「髪はもうお終いですね……次は何をしましょう?」


男が顎に指をかけた時
遠くの方で何かの音が聞こえた





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