もともと荷物が少ない大介だから、必要な物をまとめるのに時間は掛からなかった
大介も片手に箒、もう片手には雑巾とゴミ袋を持ってすぐに戻ってきて
なんだが見慣れないその立ち姿に、笑いを零す


「なに笑ってんだ」

「いや、あんまり見ない姿だなって思って」


大介から、ゴミ袋を受け取ろうとした次の瞬間
急に彼の部屋の扉が開けられた


「おかえり、

「あ、ルパン……? どちら様?」


いつも通り笑いながら私におかえり、を言ってくれたルパンの隣には
見た事のない、女の人がいた
私よりも年上で、不二子姉さんよりは年下の人
誰だろう、と首を傾げていると、女の人はニコッと笑って私の手を握った


「初めまして! 私、墨縄紫って言うの。あなた、さんでしょ?」

「え、はい。初めまして」


髪を高い位置で結い上げているから、その束が彼女が喋る度にゆらゆらと揺れる
ラフな格好で、握った手をブンブンと上下に振られて
すごく明るい人だという事が、すぐに分かった


「よし、紫ちゃん。自己紹介も終わった事だし、リビングに戻ってくれて構わないぜ?」

「はい、ルパンさん!」


パッと私の手を離すと、軽く走りながらリビングへと戻っていく


「ルパン、紫さんってどういう関係の人?」

「五ェ門の親戚だよ。なんでも修行がてら、とうぶんの間俺達と行動を共にしたいんだと」

「そうなんだ……」


さっきまで握られていた手を見つめた
大介もルパンも、紫さんについてはそれ以上何も言わなかったけれど
どことなく、少しだけ。治まった筈の不安が、ムクリと頭をもたげた気がして
その不安を払拭するために、首を二、三度振る

後ろに振り返って、立ったままの大介に「掃除、終わらせよっか」と声をかけた
大介は我に返ったように私を見て、ああ、と生返事を返す


ゴミをまとめて、掃き掃除と雑巾がけを終わらせて、リビングへと戻った
さっきまで、何故かリビングに行かせてくれなかった大介は
今度は止めもしないで、すんなりとリビングに向かわせてくれた

木製の扉のノブに手をかけた


「五ェ門様、これはどこに置けばいいですか?」

「ああ、それはこちらに」


聞こえてきたのは紫さんの楽しそうな声と、五ェ門の声
ビクリ、と手の平が跳ねた

急に心臓が五月蝿く、ドクドクと激しく鳴り始めて
喉の奥がきゅ、と狭くなった感じがする

親戚同士なんだから、仲良くするのは当たり前の事
私だって、もし身内と呼べる人がいて久しぶりに会えたら嬉しい筈
だから、あの紫さんの楽しそうな声だって、当然の事

なのにどうしてだろう

あの声が、どこかで聞いた覚えがあるのは

同じ声じゃない。同じ色を持った声を、どこかで聞いた事がある
でも、どこでなのか、それがどうしても思い出せなくて

汗が滲み始めた手の平を、一度握ってノブに手をかけた





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