「すごく気持ちいいですね、五ェ門様」


前をはしゃいで歩く紫が、後ろを歩く五ェ門にそう言う
五ェ門は少しだけ微笑むと「そうだな」と返した

こうしている時でさえ、五ェ門の脳裏に浮ぶのはの姿だった

もよく、自分を連れ出して散歩をしていたな、と
流れる青空の雲を遠くに見つめながら、五ェ門は思う


「どうかしましたか?」


いつの間にか追いついたのか、目の前で紫が首を傾げている


「いや……なんでもない」

「そうですか……? 最近、五ェ門様、ボーッとしてますね」


訝しげな表情で自分を見上げる紫に、を重ねている五ェ門


「紫殿……」

「はい」


言ってしまおうかと五ェ門は開けかけた口を、もう一度閉じた
なんでもない、と

が隣にいた時には、見た事のある景色でさえ輝いて見えた
海も、山も、川も。それこそただの町中も全てが
ただそれは、五ェ門にとって輝いて見えていたのが
その景色ではなく、だったという事

きっと、今見ている景色をに見せたら
その顔を綻ばせる事だろう、と
見える海の景色に思いを馳せた


「……五ェ門様?」


紫が、何も言わなくなった五ェ門に声をかけた時だった

不意に、五ェ門の懐にある携帯電話が鳴り出す
それはメールが来た事を告げるもので
差出人はルパンだった

メールの内容を把握した五ェ門は、紫にアジトへと戻る事を告げ走り出す





「まっさか、こんな所にいたなんてなぁ」


ルパンが先程まで、次元が読んでいた新聞の見出しを眺めながらそんな事をポツリと吐く
それと同時に、息を切らした五ェ門がリビングの勢いよく扉を開けた
大分遅れてから、紫も同様に息を切らしてアジトへと戻ってくる


「ルパン! が見つかったとはどういう事だ!」


後ろに紫がいる事も忘れ、焦ったようにルパンに問う五ェ門
ルパンが呼んだのであろう、不二子が慌てて紫を別室へと連れて行く

ルパンは五ェ門に近づき、新聞を渡す


「見出し、見てみろ」


言われた通りに、五ェ門はその新聞の見出しに目を通す
そこにはある年老いた科学者が、遺伝子学で大発見をした事が書かれていた
五ェ門はこの老人と、がどう繋がるのかが理解できないようで
ルパンにまた視線を投げる


「この老人との居場所と……どう関係ある?」

「まだ分かんねえか?」


そう言うとルパンは、また別の紙を五ェ門に渡す
紙には一枚の写真と、文章が掲載されていて
その写真に写っている主は、紛れもなく新聞に載っていた老人と同じ
僅かながらに、年を取っていた事以外は

その書類に目を通した時、初めて五ェ門の中でと老人が繋がった


「この老人は……の祖父なのか?」

「ああ」

「しかし、身内が分かっただけでは……」

「そこで、新聞のコメントに目を通すんだよ」


五ェ門は『カトウノボル博士からのコメント』と書かれた部分に目をやる

『娘の忘れ形見が、この研究の後押しをしてくれた』

その一文で、五ェ門はハッとした


は……この老人のもとにいるのか?」





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