朝の市場は驚くほどに活気がいい
そんな事を考えながら、私は今日のメニューを頭の中で考える
ゆっくり、きちんと作れることを前提に

考え事をしながら歩くと、いつも人にぶつかる
だけど五ェ門と一緒にいると、彼が誘導してくれるから
私はほぼ無傷で人ごみの中を歩ける


「今日のお昼と夕食、何がいい?」

の作る物なら、拙者は何でも構わん」

「……そういうのが一番困るんだけどね」


聞こえているのか、聞こえていないのか
五ェ門を横目で見ると、彼は前方を見据えていた

時々、この手がいつか離れていってしまうのではないかと、すごく不安になる時がある
不意に暗闇に囚われて、本当はこの今が夢なんだと
知らない誰かに揺すり起こされる、そんなおかしな不安


?」

「え、あ、ごめん。ちょっとボーッとしてた」

「具合でも悪いのか?」

「ううん、大丈夫」


笑ってみせれば、五ェ門は少しだけ皺を寄せていた眉間を離した
そうこうしているうちに、メニューも頭の中で具体的になってきて
私は早々にお店を物色して、買い物をする


帰路についても、一度考え出した不安はあまり拭えなくて
体調が悪いわけでもないのに、私は浮かない顔でいた
せっかく、隣には五ェ門がいるのに
そう思って私は、隣で手を繋いでくれている五ェ門にそっと謝っておいた


アジトであるアパートメントの扉の前に立つ
ノブに手をかけようとした瞬間、扉が勝手に開いた


「お、帰ってきたか」

「大介?」


扉から顔を出したのは、大介で
なんだか妙に慌てた様子で、大介は私だけを中に招き入れた
五ェ門はそんな大介にあんまりいい顔をしないで、後ろ手で扉を閉めながら中に入る
大介は「ちょっと掃除を手伝って欲しいんだが、頼まれてくれねえか?」と私に言った


「え。でも買い物した荷物片付けなきゃいけないし」

「そんなもん五ェ門とルパンに任せとけよ」

「……何を考えておる次元」

「なんにも? とにかくはこっちで五ェ門、お前は荷物頼んだぞ」


大介は私の右手首を掴んで、なかば強引に自分の部屋を目指した
私は驚いた表情のまま、五ェ門は憮然とした表情でリビングへと向かって
そんなに広くないアジトだから、五ェ門の後ろ姿はすぐにリビングへと消える

大介の部屋に入ると、朝とほぼ同じ状況だった


「いつもなら一人でやってるのに……急にどうしたの?」

「いや……この前の盗みの時に、利き手を痛めちまってな」

「そっか。お昼の準備もしなくちゃいけないから、早く終わらせよう」


私は、掃除道具を持ってくるために大介の部屋を出ようとした
すると、大介は大慌てで私の通路を塞ぐ


「なあに?」

「道具なら俺が取ってくるから、は先に掃除を始めててくれないか?」

「うん、分かった」


普段のポーカーフェイスが、ほとんど崩れていた
それ程慌てる理由がどこにあるんだろうか

大介の背中を見ながら、私はそんな事を思った






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