昇さんは慌ててチェストに駆け寄ると、一番下の引き出しから一枚の紙を取り出す
それは小さな写真で。私からは見えなかった

もう一度、その写真を穴が開くほど見つめて、また私を見る
昇さんは大きく息を吸うと、テーブルへと戻ってきた
腰かけず、私の隣に立って


「これを、見て欲しい」


差し出された写真を覗きこんだ

一瞬で、息が止まる


「………この子、私?」

「これは、娘達が最後に撮った写真だ。これを撮ってすぐに、子どもは安全な施設に預けた」

「施設?」

「娘達はある組織の仕事を断ってね……その組織の奴等に追われ……」


その先の言葉は聞かなくても、容易に想像がついた

写真には、沙織さんと祐樹さん
昇さんの話が事実なら、私の両親だ
その間には、見覚えのある子どもの姿があった

それは、私の今の記憶の始まりの時
鏡を見た時に写り込んだ顔
すなわち、子どもの頃の私が写っていた


「君は、発明家だと言ったね?」

「はい……」

「小さい頃から、やけに難しい本を読んだり、機械を操る事ができただろう?」

「……は、い」


昇さんは、私をきつく抱き締めた


「生きているとは思わなかった……! よかった、よかった……!」


昇さんの細い腕が震えていた
その細い腕からは、想像ができないくらい強い力

急に与えられた情報に、私は戸惑うばかりで
昇さんを抱き締め返す事も忘れていた


「風の噂で、孫も組織に捕まったと聞いていたから、てっきり殺されたもんだと……」

「……助けてもらったんです」


やっとの思いで出した声は、昇さんの腕と同じように震えている


「一体、どんな親切な人が君……を?」

「……すごく、すごく優しくて、大好きな人です」

「暮らしていた、と言ったがどうかしたのかい?」

「一緒にいられない、理由ができたんです」


私の存在はもともと、消える運命だったんだ
それを掬い上げてくれたのが、五ェ門で
大切に、大切に育て上げてくれたのが皆


「じゃあ、これからどうするんだね?」

「あんまり考えてないですけど……どこか、住み込みで働ける場所を探そうと思ってます」

「なら、ここに暮らせばいい!」


至極当たり前のように。それから、とびっきりの笑顔を咲かせて昇さんは言う


「そ、そんな事、申し訳ないです!」

「何を言ってるんだ! 君はわしの孫なんだ、一緒に暮らして当然だろう?」

「でも……」

「たとえ何年離れていたとしても、君の体に流れる血と、わしの血は同じだ」


抱き締められていた体が解放されて、今度はワシャワシャと頭を撫でられた
その行為に思わず、顔が赤くなるのを感じる

私の、血の繋がった、おじいちゃん

ずっと、同じ血を分けた人がいるなんて、思ってもいなかった
どこかにいるかもしれない、と考えても
記憶のどこを探しても、その欠片は見つからなくて
だから、ずっと諦めていた


「……本当に、一緒に暮らしても……いいんですか?」

「もちろん。妻にも先立たれて、一人寂しかったところだ。これからは、おじいちゃんと呼んでくれ!」


今日二回目の、とびきり嬉しそうな昇さん、おじいちゃんの笑顔が
私の、壊れかけた涙腺を刺激した





NEXT