写真立てに映っているのは、ほとんどその三人で
どれも幸せそうな笑顔を浮かべている
ひとつだけ、娘さんであろう女の人と、若い男の人が写っている写真があった


「その写真に写っているのが、わしの娘でね」


おじいさんは、トレイに二つのカップとティーポット
それからアプリコットジャムと、さっき買ったスコーンを乗せて
すごく、嬉しそうに話した


「さあ、冷めないうちに」

「ありがとうございます」


椅子に座って、目の前で注がれる紅茶を眺めた


「娘は、沙織と言ってね。とても頭のいい子だったんだ」

「沙織さんと一緒に、写っている人は誰なんですか?」

「本田祐樹と言ってね、娘の旦那だよ」


私に紅茶をさし出すと、おじいさんは写真立てを持って説明してくれた
やっぱり、三人で写っていた写真はおじいさんと奥さんと娘さんで


「娘さん達は、今どこにいるんですか?」


頭の片隅に浮いた疑問を、素直に聞いただけだった

だけど、おじいさんはその言葉に、ひどく悲しそうになって
写真立てを優しく元に戻すと、椅子にゆっくり腰かける


「娘と旦那はね、もういないんだ」

「え……?」

「……死んでしまったんだ。もう十年以上前の事だよ」


おじいさんは、紅茶にそっと息を吹きかけ綺麗な動作で一口
それから、私の目を真っ直ぐ見た


「娘夫婦は、有名な発明家だったんだ。わしも科学者の端くれだったんだが、トンビが鷹を産んだようでね」

「発明家?」

「ああ。それも、二人で様々な分野に挑戦していた。新薬の開発から、コンピューター機器まで……今思えば、それが沙織達を」

「……私も、沙織さんに会ってみたかったです」


うん? と首を傾げるおじいさんに、私は笑った
自分も、色んな物を作るという事を告げる


「同じ発明家として」

「面白い事を言うんだね、君は。そう言えば、君の家族は?」

「……家族、は……事情があって、本当の両親は知らないんですけど……大好きな人達と一緒に暮らしてました」


フラッシュバックのように、皆の顔が浮かび上がる

ケラケラと笑うルパン。そんなルパンと一緒に、何か企んでるようにニヤリと笑う大介
不二子姉さんはそんな二人を見て、呆れながら笑っていて

それから、私の手を優しく握って微笑む、五ェ門の顔


「色々あったんだろうね。おっと、名前を聞くのを忘れていた」


私が暗くなった事に気づいたのだろうか、おじいさんが明るい声で言いスコーンをかじる
紅茶の香りと共に、開いたビンからジャムの匂いがした


「さっき表札を見たと思うがね、わしは加藤昇だ」

「昇さん、って呼んでも?」

「ああ、構わないよ。君の名前はなんだい?」

です」

「……?」

「はい」


私の名前を聞くと同時に、おじいさんは今日の中で一番驚いた表情を浮かべた


「本当に、君はというんだね?」

「はい。それがどうかしましたか?」

「……娘達の子ども、わしの孫の名前も、と言うんだ」


切れかけた糸が繋がるように、その声は私の耳に届く





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