びしょ濡れでアジトに戻ってきた五ェ門を出迎えたのは、次元だった
次元は、玄関で佇む五ェ門に何も言わず
ただ、力の限り頬を殴りつけた

無気力状態の五ェ門は、力に従って玄関の扉へと打ちつけられる
その物音に、リビングにいた他の面々が廊下へと出てきた

そこにいたのは、ルパンと不二子
不二子は目に涙を溜め、焦点の定まらない瞳の五ェ門を見る
ルパンは何も言わない


「五ェ門、そのままだと風邪ひくわ…着替えなさいよ」


きっと、それは不二子なりの優しさだったのだろう
顔を逸らし、ハンカチを口元にやると耐え切れないと言うようにリビングへと戻っていった


「……今後の計画の話をしなくちゃならねえ。早く着替えてリビングに来な」


その言葉に五ェ門が顔を上げた
次元はすでに背中を向けていて、ルパンはただ何の感情もない瞳で五ェ門を見下ろしている


「……ああ」


絞り出された彼の声は、ひどく枯れていた

それぞれの手の平やポケットには、が残した手紙が存在していた



「……遅くなってすまない」


リビングの扉を開け、五ェ門は謝罪しながら中へと入る
机の上の朝食は、もうなかった


「今度の計画は、予定通り一ヵ月後に行う」


その言葉に、不二子が涙声で「……が作っていたメカがないと、ダメなんじゃないの?」と
すると、ルパンはスーツの内ポケットからメモリースティックを出す


「俺宛の手紙と一緒に、これが置いてあった。メカの設計図や、現時点での侵入ルートだ」


ルパンはそう言うと、そのスティックを宝物のようにまたポケットへとしまい込んだ
流れる沈黙が、誰に対しても牙を剥く


「……ねえ……あなた達の手紙には、なんて書いてあったの?」


不二子は自分宛の手紙を撫でながら聞く


「俺の手紙には、ありがとうとごめんねばっかりだったぜ」


ルパンが、遠くを見つめながら返答した


「…あの子、私のことお母さんやお姉さんみたいで、大好きだったって……」


失礼しちゃうわよね、と。涙を流しながら告げる不二子がちらりと次元を見る


「俺は部屋に戻る」


ぶっきらぼうにそう言うと、次元はリビングを荒く出て行った
大きな音をたてて閉じられた扉


「五ェ門の手紙には、、なんて書いたんだ?」


ルパンが、下を向いたまま何も言わない五ェ門に問う
その声に顔を上げるが、悲痛そうに顔を歪ませると
まだ枯れたままの声を出した


「――愛している、だけど自分のことは忘れてくれと……紫殿を大切にして欲しいと……それだけだ」


それぞれの脳裏に浮んだの笑顔が、泡に包まれるように消えていく
扉越しに五ェ門の声を聞いていた次元は、苦々しく煙草を噛むと、自分の手紙を開いた


「……何が、俺に惚れられたら幸せだ……、テメェ泣いてただろうが」


次元の頭の中に存在する最後の
あの日、初めてが紫に出会った日の泣き顔


「どこ行っちまったんだよ……馬鹿野郎」





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