ちゃんと、笑えていたかな
いつも通りに、できたかな

私は窓ガラスの外を眺めながら、妙に白い自分の顔を認識する

紫さんとアジトに戻ってきてから、いつものように昼食を作って
面白い本を見つけたから、と嘘を吐いて自分の部屋に閉じ篭った


「……っふ、……う」


我慢していた分の涙が、零れ落ちる
最近は泣いてばかりだと、やけに冷静な自分がいた

それと同時に、息ができないくらい苦しい
喉もとに手を当てて、うずくまり必死に息を吐き出す

涙はいつか枯れると、聞いた事がある
そんなの嘘だと、今は思う

きっとこの涙は、いつまでもいつまでも流れ続ける
それ程までに、悲しい、苦しい、辛い
負の感情が私の胸を、キリキリと締め上げるから


「……あ……っ」


どうして、五ェ門は私を助けたの?
なぜ、自分の手もとに置いたの?

なんで、私を愛してくれたの?


「う……っ……」


分からない事ばかりで
知りたくない事はそれでも、私の耳から入り脳に到達した


『私、五ェ門様の許婚なの』


悲しかった
辛かった
悔しかった

何よりも、紫さんへの罪悪感で、今にも潰されそうだった

嬉しそうに、五ェ門の隣で笑う紫さん
私なんかよりも、もっと前に彼女は五ェ門を好きになって
遠い日本から少ない情報を頼りに、わざわざ会いに来る程で

私だって、きっと逆の立場だったら同じ事をしている

会いたくても、会えなくて
それでもずっと待って、待って、待ち続けて
我慢できなくて、探して
ようやく会えた愛しい人

紫さんの気持ちが分かるからこそ、辛くて
でも、自分の気持ちも消せなくて

五ェ門の隣にいるべき人は、本来紫さんで
だけど、こんなにも膨れて大きくなった五ェ門への気持ちを
簡単には捨てられない

何も聞こえない
何も感じない

外のキラキラとした陽射が、ひどく悲しい


「……っ、ごめ……な、さい……!」


どう転んでも、この気持ちは絶対に誰かを傷つける
現に今、私の心は痛いくらい悲鳴をあげていて

こんな風に傷つくのは、自分だけでいい、と
一粒の砂みたいに、小さな気持ちが
少しずつ、広がっていく

誰かが傷つくのなら、自分が傷ついた方が、まだ、心の傷は浅い

でも、あと少しだけ





NEXT