「日本から出た事がなかったから、こういう町を見るのは新鮮!」


三歩前を、はしゃいで歩く紫さん
朝、起きて朝食を食べ終わった途端「昨日の約束!」と私の手を引っ張って
こうして買い物がてら、外に出て来た

やたらと、ルパン達が一緒に来たがっていたけど
紫さんがどうしても二人っきりがいい、と頼み込んでふたりでの買い物になった


「何か、欲しい物があったら遠慮なく買ってくれ、ってルパンが言ってました」

「ありがとう!」


彼女が動くのに合わせて、結い上げられたポニーテールも動く
やっぱり、西洋人の中で動き回る紫さんの黒髪は、すごく目立つ


「ねえ、さん」


一件のお店の前で止まった彼女は、私を手招きした
小走りでそこまで行くと、そのお店は日本製の陶器を売っている店で
紫さんは大きめの青い茶碗を持って、私に微笑みかける


「これ、五ェ門様にどうかな?」

「え……」

「このお茶碗、すごく五ェ門様っぽいの。買って行ってあげたいなぁ、って」


照れたようにはにかんで、お茶碗をいじる紫さんに
訳もなく心臓がどくどくと速度を速める


『ルパン、紫さんってどういう関係の人?』

『五ェ門の親戚だよ。なんでも修行がてら、とうぶんの間俺達と行動を共にしたいんだと』


そのやりとりが、脳裏に浮んだ

ただの、親戚なら
こんなに照れたように、プレゼントしたい物を選ぶだろうか


『五ェ門様、これはどこに置けばいいですか?』


あの時の、声。あの声は


『本当に五ェ門のこと、好きだから』


私と、同じ声だ


「紫さんって……五ェ門の親戚、なんですよね」

「え?」


言葉の通じない店員さんと、身振り手振りでやりとりする紫さんに唐突に聞いた
紫さんは私の言葉に、一瞬だけ表情を曇らせる


「誰からも聞いてないの?」

「えっと……」

「私、五ェ門様の許婚なの」


許婚

その言葉を飲み込んで、噛み砕いて理解するまでに
私はきっと、時間をかなり使っただろう

涙は、不思議と出てこなくて
口は勝手に「そうなんですか、初耳ですよ」と
笑顔も添えて、言い放っていた


「私のおじいちゃんが決めた事だったんだけどね、会っていくうちに、私五ェ門様に惹かれたの」


私の記憶の始まりは、五ェ門から


「色々あって、私が誘拐された時もルパンさん達と一緒に助けてくれて」


記憶を失っても、怪我をしても傍にいてくれた皆


「結局、修行に出るから待っていてくれって言われて……でも、我慢できなくて探して、押しかけちゃった」


その後の記憶が、定かじゃなかった
ただ、我に返った時にはもう、アジトの自分の部屋にいて
リビングの方から聞こえる明るい声に、耳を塞ぎたくなった





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