アジトでお昼ご飯を作っている時、呼び鈴の代わりに扉を叩く音が聞こえた
濡れた手をタオルで拭いて、玄関へと向かう


「お客さんなんて珍しいなぁ」


不二子姉さんが今日来る予定もない。銭形警部だったら、有無を言わさずに突入してくる筈
丁寧に叩かれた音が、もう一度耳に届いた


「はーい」


来客はいる筈であろう場所に視線を置くと、そこには誰もいない
首を傾げながら、辺りを見回しても誰もいなくて
悪戯だろうか、なんて考えながら踵を返そうとした


「ここにいるよ!」

「へ?」


元気な声が聞こえた
声を辿って視線を下ろしたその先にいたのは、小さな女の子だった


「……誰に会いに来たのかな?」

「ぱぱ!」

「ぱ、ぱぱ?」


一生懸命頷く女の子は、とても可愛い
おかっぱくらいに切り揃えられた髪、小さな鞄を持つ手はそれ以上に小さくて
そんな女の子の頭を撫でながら「ぱぱって誰かな?」と問う


「ままはね、ごえもん! って言えば分かるって言ってたよ!」


その一言で意識が飛びそうになった



リビングに女の子を通すと、当たり前だけれどもその場にいた全員が固まった
とりあえず、女の子にジュースとお菓子をあげて、椅子に座らせる


「……この子ね、お父さんに会いに来たんだって」

「それが、どうして俺達のアジトなんかに?」

「……誰も、覚えはないのね?」


三人はうんうん、と首を頷かせる
しょうがないのでもう一度女の子に聞く


「ぱぱの名前は?」

「ごえもん!」


五ェ門が誰なのか分からないのか、女の子は私を見上げたままそう言い切る
名前を呼ばれた本人は、これでもかってくらいに動揺していて
他の二人が詰め寄っていた


「五ェ門ちゃぁーん? まぁた何かやらかしちゃったのかなぁ?」

「今度こそは貰うぞ」

「な、何を言うか! 拙者に子どもなどおらん!」

「そう言うけどもよ、現にあの子は五ェ門の名前を言ってるぜぇ?」


三人が一斉に女の子に近づいた
そのせいか、女の子は怯えたような目をして、私の影に隠れる


「怖がらせちゃダメ!」

「いや、怖がらせるつもりでやったんじゃねえよ」

「そうそう。って言うかはなんで平然としてられるんだ?」

「別に、まだ何の事実確認もできてないわけだし……ねえ?」

「うっ……」


五ェ門を見れば、バツの悪い顔で呻き声を上げられた
それなりに人生経験があるのだから、それはそれでしょうがない
だからこそ、今慌てふためいたり落ち込んだりしても意味がない


「DNA鑑定でもしてみようか?」

「すぐできるもんなの?」

「うーん、専門の機関に送らないとダメだし、結果が出るまで時間かかるけど、何もしないよりかはいいかなあって」


ふんふん、と頷くルパンと大介
とうの五ェ門はどんどん顔色を悪くさせていく


「今は、まだ怒ってないから大丈夫だよ」

「……結果によっては、また変わるのであろう?」

「どうだろうねぇ……その言い草だと、思い当たる節があるのかな?」


冗談めかして言ってみると、五ェ門はすごい勢いで首を振る
私は「冗談だよ」と笑ってみせた


「ほっぺたの中、こすってもいいかな? 痛くしないからね?」

「うん!」


そう言って女の子は私に向かって、その小さな口を開いてくれた
綿棒で軽くこすり、付属の箱に入れる
五ェ門にも同じ事をする


「じゃあこれ送る準備してくるから、あとはよろしくね」

「俺達で子守をしろってか?」

「うん」


大介は汗を垂らしながらそう聞くから、思いっきり首を縦に振った

自分の部屋に入り、綿棒二本を丁寧に梱包する
そしてパソコンで調べた機関の住所を書いて、最終チェック
ついでに思案途中だった機械の仕上げもした

しばらくして、何も聞こえてこない事に不安になる


「大丈夫だよね……」


慌てて図面を置いて、リビングに向かった





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