遠くから、澄み渡る鐘の音が聞こえた
は一度だけ立ち止まり、その音に聞き入る


「……綺麗な音」

「C'est le son de la cloche par quels un retards programmes de l'ange.」

「鐘の音?」

「Le mari et femme qui ont entendu ceci peuvent devenir heureuses.」


ゆっくりと、手を引かれ聞こえたのは扉の開く音
花の香りだろうか。は芳しい香りを感じる


「目、開けていいぜぇ!」

「ルパン?」


思わぬ人の声に驚き、はパッと眼を開ける

そして、声を失った

広がる景色。それは、小さな教会で
並ぶ数列の長椅子の前方には、珍しく正装をしているルパンと次元
そして、その真向かいには綺麗に着飾り、涙ぐんでいる不二子がいた

改めて自分の姿を見れば、着ているのは花嫁衣装

隣に立つ、の手を引いてくれた老婆は、声の通り優しい顔をしていて
彼女はに百合のブーケを渡すと、背中を押す

赤い絨毯に沿って、視線を動かせば祭壇には神父の格好をした老父
そして、その前に立っているのは


「五ェ門……?」


涙で視界が緩む
世界が、虹色に輝いているように、の目には映った

少し照れたように目配せをし、を待つのは
彼が絶対に着ないような、真っ白な燕尾服を纏った五ェ門
やっと理解した今の状況に、はただ涙を流すしかなくて

老婆がもう一度、優しく背中を押す
はそっと、歩き出した


思い出すのは、様々な思い出


泣きながら、五ェ門への想いを自覚した事
喧嘩もした。勘違いをして、すれ違った事も
記憶を失っても、が求めたのは五ェ門だけで
それだからこそ辛かった事もあった


「……綺麗だ」


ようやく五ェ門の横に辿り着いたに、彼はそう言う
その言葉には顔をあげ、涙を零しながらも五ェ門に微笑みかけた


「五ェ門も、すごく似合ってるよ。誰が、結婚式を挙げようって言ってくれたの?」

「拙者だ」

「え! でも神社とかじゃなくて、よかったの?」


その言葉に五ェ門は目を丸くし、そして優しく笑う


「拙者がのウェディングドレス姿を見たかったのだ」

「照れるなぁ……」

「それに、気にしていたのだろう? 籍を入れられない事を。だから、式だけでもすぐに挙げたかったのだ」

「……気づいてたの?」

「これでも、以前よりのことを分かるようになったつもりだ」


五ェ門は自分の胸元から、小さな箱を取り出す

何かとが目を凝らして見ると、中にはチェーンに通された指輪
祭壇には二人がする物だろう。シルバーリングがある
それとは別の、言うなれば婚約指輪なのだろう


「遅くなってしまったが、受け取って欲しい」

「順番、グチャグチャだね」

「かたじけない……」


そっと、首にかけられた指輪に目をやる
透明なそれは一見ガラスのようにも見え、は小さく笑うと
「これ、どこで買ったの?」と冗談交じりで五ェ門を見上げた


「拙者の故郷でしか取れない石だ。名前も知られていない、世界的には価値のない石かもしれん」

「もしかして、日本に行ったのって……これ?」

「ああ。どうしても、その石をに渡したかった」


故郷の石、と聞きの涙腺がまた緩み出した


「Are the preparations good?」


目の前の老父が、そう尋ねる
フランス語が分からない二人のために、どうやら老父は英語で話してくれているようで
二人は笑うと、姿勢を正し老父に向かう


「Do you promise thou, that you love neighbors in sickness and in health?」

「誓う」

「And you.Do you promise you love thou, this man throughout the life and that you walk it together?」

「誓います」

「Then the exchange of the ring and the kiss of the oath.」


老父は微笑みながら、二つのリングが乗ったリングピローを二人に差し出す
五ェ門が小さなリングを取り、の左手の薬指に嵌めた
も同じように、自分のしている物とサイズ違いの物を
五ェ門の、自分よりも大きな手を握り、そして薬指に嵌める

ベールがゆっくりと上がる
が瞼を下ろすと、その頬に一筋涙が流れた

二人の唇が重なると同時に、天使の宿る鐘が鳴り響く





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