作戦決行日、それぞれの思考などお構いなしに
その日の夜の空は、酷く澄み渡っていた

ルパン達に、あらかじめ伝えられていた事
まず宝は当主である、マーヴィンの寝室の金庫にある事
次に、その日は息子ケビンの婚約発表を兼ねたパーティーだと言う事
そして、そのパーティーに不二子とが参列している事だった

その日の計画は、不二子と、そして五ェ門の三人が会場でそれぞれ見張りをし
ルパンと次元が宝石を盗む、という内容だった


そこで誤算が生じる事を、まだ誰も知る由も無かった



? 緊張しているの?」

「ええ……こんな大きなパーティー、初めてだから」

「怖がらないでいいんだよ。僕が傍にいるから」




淡い水色の、マーメイドドレスに身を包んだに、そう微笑むケビンがいた
彼の自室で二人、寄り添って座る景色は確かに恋人同士なのだけれども
それも今日でお終い。そう分かっているにとっては、この時間
計画実行までの、今の時間が何よりも苦痛だった


「そろそろ時間だ……大丈夫?」


もう言葉を出す事さえ、辛くて
はただ、そっと頷くとケビンの手の平を取った

その頃、豪邸の庭先ではルパン達と不二子が合流していた
パーティーに潜入するのは、五ェ門のみ
ルパン、次元は共に普段と同じ格好で打ち合わせをしている
五ェ門はキョロキョロと、何かを探すかのように首を右往左往させていて



「そんなに探したって、は先に潜入してるんだからいないわよ」

「……不二子」

「いい? もしまたのこと泣かせたら、本当にあの子は私が貰うからね!」

「かたじけない」



お互いに言葉を交わし、五ェ門は不二子からパーティーの招待状を受け取る
不二子は「先に行くわ」と言い残し、邸内へと消えていった
五ェ門はもう一度、使い慣れないタイを締め直し、ルパン達に目をやった



「ちゃあんとのこと連れ戻して来いよぉ?」

「心得た」

「なんなら俺が代わりに行くぞ」

「それは聞き入れられぬ申し事」



一同は顔を突き合わせると、ニッと笑って
その拳を星が煌く空にと掲げた







「本日は息子、ケビンの婚約披露宴にお越し下さり、誠に有難うございます!」


五ェ門が邸内に入ると、既にパーティーは序盤を迎えていて
先程見送った不二子は声高々に、パーティーの幕開けを叫んだ当主の横に並び
いつものごとく着飾り、そして気づかれぬよう辺りを警戒していた

肝心のの姿は、確認できず
ただ、焦燥感と不安だけが、五ェ門の胸の中を渦巻いていかせる


その時だった


「それでは本日の主役、息子のケビンと婚約者の登場です!!」


その声に反応して、振り向いた五ェ門が見たものは
高い高い階段から降りてくる、若い二人の男女
男は金髪碧眼の青年で、年端がと同じくらいだろうと
そう思いながら、隣の女に目をやれば

そこに立っていたのは紛れもなく、自分が捜し求めた
見た事もないドレスを身に纏い、綺麗に飾られた愛しい女がいて


脳がくらくらと揺れるのを、五ェ門は感じた
確かにあれは、だと。見間違えるはずがないと、もう一度視線を戻せば
そこにあるのは受け入れがたい事実


腕を組み、仲睦まじく微笑みあう姿は、まさに恋人同士のもので
自分といる時とは違う、そんな微笑み方をしている
そんな彼女が一度だけ自分のいる場所に目を向けた

の瞳は、五ェ門を認識する事なく、再度ケビンへと向けられた
最上級の笑顔を添えて

その刹那に、五ェ門の中の「何」かが崩れ落ちていった
醜く、収集のつけられない、誰しもが持つ感情が
音もなく、ただ五ェ門の心の中に流れ始めた




階段を降り終えたが、ケビンに何かを伝える
そして彼の手を離し、一人長く広い廊下へと消えていった

一人、五ェ門は虚ろな目を持ったまま、が潜った扉と同じ扉を潜っていった








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