「恋人って言うと、語弊があるわね……、大丈夫?」

「う、ん」


ぎゅっ、と不二子姉さんが私の手を握る
けれども、そこから体温は感じない
きっと私が感じる事を、拒否しているんだと思う


「中には関係を持った人もいるけど、五ェ門が一方的にって事が多いわね」

「そ、っか……」



ウェイターがカフェオレをふたつ、運んでくる
カチャカチャと食器がぶつかる音
それすらも、今は私の涙腺崩壊の誘発になりかねない

不二子姉さんは、私の手を離すとそのままカフェオレを口に運んだ
私も同じように自分のそれを、飲もうとしたけど
刹那、揺らめいた景色にあたしは泣き出してしまった


「っ、ふ……う……」

「……だから、言ったじゃない。傷つくのはだって」

「違っ……」



確かに、胸は痛い
それに頭もガンガンするけれど
これは、違うの

そう言いたかったけれど
とめどなく溢れる涙を止められる事が出来なくて、言葉は邪魔される

自分でも理由が分からない、涙に戸惑いながらあたしは
目の前で同じように、泣きそうになっている不二子姉さんを見つめた









その頃、アジトでは五ェ門を囲んだ次元、ルパンが
写真の事で五ェ門を問い質していた



「何でお前はあんなモン取っておいたんだ」

「それは……」

「確かに? あの女達はみぃーんないい女だったよ。でもよ、お前は一番いい女を手に入れたんだろ?」

「……うむ」

「アイツ、スッゲエ傷ついた顔してたぞ」



一番最初に、五ェ門の写真を見せられた次元がそう呟く
その言葉に五ェ門が息を呑んだ

次元から、全てを聞かされたルパンと五ェ門
ルパンは「可哀相なちゃん」と零し
次元に至っては怒りを露にしていた

全ては、自分が招いた事
分かっていても、今、五ェ門が一番会いたかったのは
抱き締めたかったのはだった


「……捨てるつもりで、箪笥から出しておいた」

「それで?」

「捨てる際に、に見られては困ると思って、箱を探していた」

「ふーん。で、その箱が見つかる前にに見つかったって、ワケねぇ」

「かたじけない……」



そうルパン達に謝罪する五ェ門に、次元が食って掛かる
「傷つかないように、隠そうとしてたって見つかったらしょうがねぇだろうが」
その傷を抉るように次元が言葉を投げた



「傷つけない為の方法が、余計にを傷つけたんだぞ」



真っ直ぐに、自分へと向かってくる言葉を
五ェ門は無防備のまま受け取る
それは、長年連れ添ったと仲間からのものという相乗効果で
より一層五ェ門を苦しめた

途端、ルパンの携帯電話が五月蝿いくらいのラブソングを奏で始めて
それは不二子からの着信を知らせるものだった


「おおう、不二子ちゃん? どうしたの?」


最初こそは、いつもの調子で電話に出たルパンだったが
次第にその表情から、ふざけた面持ちが抜け
真剣な瞳で、五ェ門を見据えている


「ああ……分かった。じゃあ、頼んだわ」


ぴ、と電子音が通話を切った



「当分は不二子のアジトで生活するそうだ」

「何っ?!」

「今は……お前に会いたくないんだとよ、五ェ門。いや、会えねぇって言ってたな」

「っ……それは本当か?」

「こんな事で嘘吐いたって、一文の得にすらならねぇよ」



冷たく、ルパンにしては無慈悲な言葉に
五ェ門も次元も、彼が相当怒りを抱いている事を察する
黙り込み、その場に座り込んでしまった五ェ門に
次元は何の言葉をかける事もなく、リビングを後にした




誰もいなくなった、寂しい部屋に
五ェ門の溜息だけが浮き上がった









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