お昼を食べ終えて、後片付けは「俺もお茶行きたい!」と
駄々をこね始めたルパンに任せて
不二子姉さんと私は、アジトを出る

まだ昼過ぎの街は活発に動く
青空の下、澄んだ空気がすごく気持ちよくて
ん、と背伸びをすれば、空に手が届きそうだった


「さっきね、とってもいい感じのカフェを見つけたの。そこに行きましょ」

「うん」


そう言って不二子姉さんは、ルパンのフィアットの鍵を回しながら駐車場に向かう
その後ろ姿に私は、ちょこちょことついて行く
ポケットには、エプロンに入れてあった写真が入っている


大介に聞いてダメなら、ルパンに
そう思ったけれども、似てないようで似ている彼に聞いたところで
きっと返ってくる言葉は、同じだろうと思ったから

騙すような形で、いささか胸が痛んだけれども
それでも、このモヤモヤが晴れるなら、と
無理矢理自分を納得させて、不二子姉さんについて来た





フィアットに乗り込んで、シートベルトをする
窓を開けて、エンジン音が聞こえたら出発の合図
途端に風が車内に充満して、心地のいい空間になる

「そんなに遠くないからすぐ着くわ」と言う不二子姉さんに
私は「そっか」とだけ返す


、本当に何かあった?」

「え?」

「やっぱり元気ないわよ、私心配しちゃう」

「そう、かな……自分では普段と変わらないつもりだけど……」

「そうよぉ。全然元気ないわ」


まぁ、カフェに着いたら甘い物でも食べながら、相談聞いてあげるわ

きっと私にお姉さんがいたら、こんな感じなのかな
そんな事を思いながら、髪を風に遊ばせていた





「じゃあ私はカフェオレで。は何にする?」

「私も同じ物で」


メニューを受け取ったウェイターが、甲斐甲斐しく頭を下げて行く
失礼するわね、と不二子姉さんが煙草を取り出す
その事も考えて、風上に私を座らせてくれたみたいで
煙は全く、私の方には流れてこなかった



「で、の元気がない原因は何かしら?」

「――……」

「正直に話しちゃいなさい。その方が楽よ?」



そう優しく誘われても、どうしても躊躇いは消えなくて
だって、この写真は元を辿れば五ェ門の物
それを勝手に持ち出して、あげく人に秘密を聞こうとしている


でも、それでも
知りたいと思う欲は、そんな自尊心すら殴り倒してしまう
いけない事でも、知る必要があるんじゃないかと


「この写真、五ェ門の部屋で見つけて……一番上の物しか見てないけど、写っている人、知ってる?」

「あら五ェ門てば、こんな物まだ取っておいたの?」

「不二子姉さん、何か知ってるの?」


重なっている何枚もの写真を捲っては、懐かしい、やあら、この人など
一人だけ理解している風な声で、私の興味心を刺激する


「知ってるも何も、この人達は……」

「人達?」


何かを言おうとして、不二子姉さんの顔が歪んだ
気まずい、そんな感覚の顔で
そっと、テーブルの上に置いた私の手を取って
殊更優しく囁いた



、この事は聞かない方があなたの為よ」

「……どうして、大介も不二子姉さんも、そう言うの?」

「この写真の事……それから写っている人達の事を聞いても、あなたに何の得もないの」

「それでも! 私は知りたいよ……」



優しくされた瞬間に涙が溢れた
私の涙に、不二子姉さんも泣きそうになって
を傷つけたくないの……」そう目を伏せる


「何も知らないまま……五ェ門といる方がよっぽど辛い」


薄々は、感じてる
それでもそれを信じようとしない、自分と
しょうがない事だと諦めている自分と
嫉妬に狂い掛けている自分が、確かにそこにはいて

ぽたりと、不二子姉さんの手の甲に落ちた涙
それを感じた不二子姉さんは、ハッと顔をあげた



「……が、そこまで聞きたいなら、話してあげる」

「ありがとう……」

「でも、これだけは約束して? 絶対に五ェ門を信じるって」

「……うん、約束、する……」



その約束が、確実ではない事くらい
きっと不二子姉さんも、私も知っていたと思う
でも、もう後には引けなくて









「この女の人達はね……五ェ門の昔の、恋人よ」








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