「おはよう、」と不二子姉さんが、アジトのドアを潜るまで
私はずっと、一人キッチンに蹲って泣いていた
それを見た不二子姉さんは「傷が痛むの?」と心配してくれて


「ううん、違うの……」

「じゃあどうして……」

「五ェ門が、すごく……今の「私」を見て辛そうにするから……」

「五ェ門が?」

「きっと……そんな五ェ門を見て……私の中の「私」が泣いてるの」


その言葉を聞いた不二子姉さんは、私を抱き締めてくれた
ふありと香る、彼女のパフュームに安心する



は、何も悪くないわ……ううん、誰も悪くなんてないのよ、ただ」

「ただ?」

「人の気持ちは難しいの。難しいから、絡まったり傷ついたりするのよ」



不二子姉さんの言葉に、私の中の「私」が反応した
その影響でまた、涙が溢れ出す
まるで、子どものように、みっともないくらい
それでも私はわんわんと泣いた


泣いた後の顔を、起き抜けに見た大介とルパンも、私を心配してくれて
何て言っていいか分からない私を見かねて、不二子姉さんが
「女同士の秘密よ」とフォローしてくれた


「あり? そういやあ五ェ門ちゃんは?」

「五ェ門なら、修行に行くから暫く離れるって……」

「ありゃまぁ、なんて勝手な子なのかしらぁねぇ!」

「放っておけって。アイツも色々参ってんだろ」


でもよう、とまだブツブツと文句を言うルパンに
大介がなあに、すぐ戻るさ。と宥めている
私は作りかけの朝ご飯を、涙を拭いならが仕上げた



その日から、五ェ門の抜けた三人の生活になった

勿論、食料も少し減り、作る分量も変わる
今度の盗みもまだ、当分先の事らしくこれと言って目立つ動きもない
銭形警部、と呼ばれるルパンの宿敵にも
まだここを嗅ぎつかれていないと言う


掃除をする時が、一番寂しかった


自分の部屋も、ルパンや大介の部屋も
当たり前の事だけど、人がいるっていう感覚がある
なのに、五ェ門の部屋だけ
家具や物はほとんど、そのままなのに
その場所の主がいないだけで、部屋すら泣いているみたい

部屋の泣き顔のせいで、私まで泣きそうになる
それが毎日あるから、涙を堪えるのも一苦労で



その日も、泣きそうな目を強引に擦って
掃除機のスイッチを入れた瞬間だった



ちゃん! 何してるのかなっ!?」

「わっ! ル、ルパン……」



肩に圧し掛かられ、後ろを向けばそこにはニヤニヤしているルパンがいた
涙がバレないように私は、すぐに掃除を始めた

背中に刺さる、ルパンの視線
気になって私は振り向いて、なあに? と声をかけた



「いんや、記憶を失ってもは五ェ門に振り回されっぱなしだなぁって思ってな!」

「え……?」

「ほんっとうにお前らって不器用だよな」



グシャグシャと頭を撫でられた瞬間、何かがフラッシュバックした

牢屋で、私とルパン
私は泣いていて、囚人服を着たルパンが慰めてくれている
何かを喋っていて。私はただ泣く事しか出来なくて
そんな場面



「まぁ焦らず記憶を取り戻しましょーね」

「うん」

「やっぱりは笑ってる方がいいぜぇ?」



ぽんぽん、と髪を直されて
ルパンは五ェ門の部屋を後にした

私はもう一度辺りを見回して、掃除を始める
少しだけ心が軽くなった。そんな気がした





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