私の名前は、
聞かされてからすぐに、お医者さんに診察をされ
「もう大丈夫だろう」そう告げられた
それから、今の自分が記憶喪失な事も、これからどこに行くかも

私の記憶障害は、逆行性健忘症だと言われた
普段生活していく上で、全く障害はないけれど
いわゆる「思い出」が一切ない

生活する為の行動や知識は、覚えているのに
自分が誰なのか、それすら思い出せない
泣きたい衝動に駆られる。けれど、ルパンさん達の前では泣いちゃいけないような気がして
一生懸命、笑顔を作った



「怪我も大した事ないって言うし、アジトに戻った方が記憶も戻りやすいんじゃない?」



私の、少ない荷物を持ちながら不二子さんはそう言う
うんうんと頷くのはルパンさんで、他の二人
次元さんと石川さんは、何も言わないまま後ろから歩いてくる
お医者さんの部屋から出て、裏の駐車場まで歩いてきたのだ


「アジト? 家じゃなくてですか……?」


どこか、おかしいと感じていた

私自身を見て、どうもこの人達と「家族関係」にあるとは思いづらくて
かと言って、誘拐犯にも見えない。愉快犯と言われれば納得はいくけれど

ならば、私とこの人達の本当の関係って一体?



「まぁ、家って言っても可笑しくはねえけっども……アジトはアジト!」



車に、石川さんと次元さんを押し込んで、ルパンさんは私に言った
不二子さんは石川さんと次元さんが乗った、後部座席に座って
私はルパンさんにエスコートされながら、助手席に座った



「俺達は泥棒よ」



唐突にルパンさんはそう言う
当たり前のように言うから、私も「そうなんですか」としか返さなかった


「あり、驚かないの?」

「ビックリしますよ、そりゃ。でも……」

「でも?」

「あんな風に、起きた瞬間の私を必死に心配してくれたり、記憶がなくなる前からあなた達といたって事は」

「事は?」

「悪い人ではないって事です。たとえ泥棒でも。それに、記憶を失くす前の私が、おかしい事してるとは思いたくないですし」


そう言って、自然に浮かんだ笑みを見せれば
「やっぱりは、記憶がなくてもだな」と
少し嬉しそうに笑うルパンさんがいた





車が止まり、一軒のアパートの前に着く
お世辞にも綺麗とは言いがたい
入るのを躊躇していると、後ろから次元さんに声をかけられた


「入らねぇのか?」

「え、あ……私が、本当に入っちゃっていいのかなって……思いまして」

「……敬語は使うな。それに、元々はお前のアジトでもあるんだから、遠慮する事ねぇよ」

「はい、あ、いえ、うん…」


どもる私を、笑いながら中へと誘う
当たり前のようにされる行為に、ますます私は戸惑った


ふと、後ろを向けばそこには石川さんが立っていた
ただ呆然と、私達を眺めていて





その顔は酷く悲しげだった







NEXT