気づけば部屋には、朝の光が充満していた
鳥の囀り、遠くで車と人の声がする
一番最初に目を覚ましたのは、五ェ門だった

ふと、頭を持ち上げて、眠っているを見る


「……?」


眠っている筈だと思った、愛おしい彼女は
半身を起こし、呆然と辺りを見回していて
五ェ門は駆け寄りそして声をかけた



「大丈夫か? 傷は痛まないのか?」

「……」



五ェ門はの肩を抱き、そう問いかける
けれどもは何も言葉を発しないまま、彼を見上げていた

おかしい、と五ェ門は直感で感じ取る



「あなたは……誰ですか?」



のその声で、他の面々も目を覚まし始める
彼女が起きているという事実に、喜んだのも束の間
異変に気づいた彼らは、こぞってに声をかけた


「……まさか、忘れちまったのか?」

「俺だよ俺、ルパン三世よ?」

、冗談は止して。ね、分かるでしょ?」


その声に、はただ困惑の色を深くするだけ
次第にその瞳には涙が溜まり、頭を抱えベッドに突っ伏してしまう



「分からない、分からないよ! あなた達は誰なんですか!? 私は……私は……何者なの?」




泣き声を聞き、駆けつけた闇医者は
の白い腕に鎮静剤を打ち、その薬ではまた眠りの世界に飛び込んだ

その横で、彼らはただ事の成り行きと
これから話されるであろう、最悪の事態を思い浮かべていた


「今の彼女の状況……分かると思うが、後遺症が出てしまったようだ」

「記憶、障害か……?」

「ああ、簡単に言えば記憶喪失。しかも自分自身の事すら忘れてしまう程の重症だ……」

は、元に戻れるの? 記憶は取り戻せるの?」

「それはなんとも言えん。次に目を覚ました時には元に戻ってるかもしれんし、最悪このままという可能性もある」



何にせよ、打つ手はない。と、告げられた四人は
もう声を発する気力さえ、なくしていた





瞳を開けば、光が眩しいと感じた
重い体を起こして、周りを見ると誰もいなかった
さっきの人達すらここにはいない
そう思ったら、どこか寂しいような安心したような
そんな気持ちが湧き上がった


手の平を持ち上げて眺めてみる
巻かれた包帯、消毒液の匂いで怪我をしている事は分かった
隣をふと見れば、鏡があって
そこには見た事のない、「私の顔」があった


「目を、覚ましたのね」



声に反応して、そちらを見れば綺麗な女の人が立っていた
その後ろには三人の男の人がいて
皆、すごく悲しそうな顔をしている

その中でも特に一番、今にも泣きそうな人
着物を着た男の人になぜか、視線を奪われた


「あなたの名前はね、、て言うのよ」


私の隣に座り、女の人はそう教えてくれた
優しく優しく、きっとあたしの感情を気遣ってそうしてくれているんだろう


……ですか」

「ええ」

「それから、この俺っちがルパン三世さ」


女の人の肩からひょっこりと顔を出し、そう言ったのは赤いジャケットを着た男の人
さっきまでの悲しい顔はどこ吹く風、今はすごく飄々としている
この人の性格が、どことなく掴めた気がした



「そこにいる帽子を被ったのが次元大介、隣の無愛想なのが石川五ェ門さ」

「私は峰不二子よ」

「はぁ……一体、あなた達と私はどういう関係なんでしょうか?」



私が言った言葉に、五ェ門、と呼ばれたあの着物を着た人が
少しだけ焦った顔で、前のめりになった
それを、隣の次元と呼ばれた人が、手で制して


「そうだんなぁ……君は、俺達にとってかけがえのない存在ってところかな」


飄々とした声でもなく、悲しい声でもない
優しい声でルパンさんは、そう私に言ってくれた











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