事の発端は、一枚の写真だった
いつものように朝ご飯を作って、その後片付けを終えて
それから、普段通り掃除を始めた

今潜伏しているアジトは、リビングからルパン、次元、私、五ェ門の部屋が順に並んでいて
手前の部屋から掃除を終えさせていく


「よし、これで終わり!」


掃除機のスイッチを切って、私は腰を伸ばす
低姿勢を保つ掃除は、そんなに楽じゃない
けれど、綺麗になった部屋を見た時とか、ありがとうって言われるのが嬉しくて
ついつい、毎日掃除をしてしまう

最後の部屋は五ェ門の部屋で、ここだけ畳が敷いてある
普段、あまり入らないこの場所を、その時だけは何故か色々と調べてみたくなって
私はそっと壁に掃除機を立てかけると、辺りを見回した


「大介と同じで、あんまり物がないなぁ……」


敷かれた畳の上に、これまた綺麗に畳まれた布団
それから小さな箪笥。それら以外は何もない殺風景な部屋
思わずこの部屋の主を思い出して、苦笑いを零した


「ん?」


ふと、目に入ったのは白い紙切れ
それは数枚が重なり合い、箪笥の後ろにまるで、隠れているように落ちていた
整理している最中にでも落としたのか、そう考えながら
私はそれを拾い上げた


「なんだろ、これ……」


持った瞬間の手触りで、写真だと分かる
白い部分は裏面なのだろうか、私はひっくり返して写真を見た


「……」

? 何をしておる?」

「っ五ェ門、お、お帰り」

「ああ、ところでそれは……?」


訝しげに、帰ってきた五ェ門にそう言われる
咄嗟に私は写真を、ポケットにしまい込んだ



「なんでもないよ! 今お昼ご飯用意するね」



首を傾げる五ェ門の横を、足早に通り過ぎる
ドクドクと鳴る胸の音が、強張る表情がバレませんように、と
何度も何度も、祈りながら





「これ、どうしよう……」

キッチンに来た私は、早速お昼ご飯の用意を始めた
けれど、思うように事が進まないのは、今胸ポケットにあるこの写真のせいで
騒ぐ胸の中が煩わしい。こんな事ならさっき、本人に問いただせばよかった
そんな事を考えながら、私は鍋の中身を掻き混ぜる


写真の中に写っていたのは五ェ門と、知らない女の人だった
不二子姉さんでもない、私なんかより遥かに綺麗な人
その人と五ェ門は、写真の中で仲睦まじくしていて

見た瞬間、胸が抉れたかと思った




鍋の中身を見れば、ちょうどいい具合になっていて
私は火を消して器を探す
冬も到来して、随分冷え込むからと、今日はうどんにしたんだけれども
それを入れるべき器が、棚の一番上にあって
どう考えてもそれは、私の背で届く場所じゃなかった



「ん、もうちょっと……!」

「どれを取るんだ?」

「大介! 帰ってたの?」

「ちょうど今しがたな。これでいいのか?」

「うん。今日は不二子姉さんも一緒らしいから、五つ取ってくれる?」




私の背後から、大介はひょいひょいと器を下ろす
こういう時、身長が高いって便利だな、とつくづく思わされる


「これで全部だな」

「うん、ありがとう」

「どうした? 今日はやけに元気がねぇな」

「え……?」

「五ェ門となんかあったのか?」



どうして五ェ門? そう聞けば
お前が元気だったり、逆に今日みたいになるのは、大体五ェ門絡みだろ、と
大介が意地悪そうに笑った


「……そんなに分かり易いかな、私」

「ああ。五ェ門以上に分かり易いぞ」

「あの、さ」


言いながら私は胸ポケットの写真を取り出す
どうしてか、その手は震えていて
たった一枚の写真を見せて、これは誰? と聞くだけなのに
どこか、私の中の何かが危険信号を発している



「これ、ね、五ェ門の部屋で見つけたんだ……写ってる人、知ってる?」

「お前、これ……」

「え?」

「これ、どこにあったんだ?」

「箪笥の後ろに落ちてたんだけど……」

「悪い事は言わねぇ。何も聞かずにさっさとそれは捨てちまいな」

「でもこれ五ェ門の写真だし……」

「真実を知って、傷つくのはお前だ。




いつもの優しい声じゃなくて、少し強めの声でそう言われてしまったら
もうそれに従うしかなくて
私は、コクンと頷いて、それをもう一度ポケットにしまった









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