「しっかし、五ェ門の奴おっそいなぁ」


ルパンは椅子に跨りながら、そうアジトの古惚けた扉を睨んだ
次元は既に煙草をふかしつつ、マグナムの整備をしている

ルパン達三人は、その日の夜
ある豪邸に忍び込み、いつも通りに仕事を終わらせた
しかし、今回の銭形の作戦が思わぬ程厄介だった為に
三人はそれぞれバラバラに逃げ出して

その際、ルパンと次元に到っては無傷で帰ってこれたのだが
五ェ門は運悪く、豪邸の警備の銃弾が肩を掠めたせいで怪我を負っていた
散り散りになっていたせいで、アジトにいる二人はそれを知らない


ガチャリ、と扉が開く


「おっそいでねぇの、五ェ門ってお前肩怪我してんじゃねえか!!」

「拙者のことはいい! それよりこの子を!」


肩から血を流す五ェ門に、まず二人は驚いたが
それ以上の衝撃的なものが彼の腕の中にあった



「おいおい、そのお嬢ちゃんどったの?」



五ェ門の腕の中で、意識はないが苦しそうに息をする少女
その体の至る所には痛々しい生傷がある

ルパンは普段あまり見ない五ェ門の様子に応じるよう、少女を抱き上げる
見た目よりもずっと軽い体重に、また驚きを隠せなかった
彼はそっと、お世辞にも綺麗とは言いがたいソファに少女を寝かせ
傷の具合を診る


「この血は……五ェ門、お前のか?」


確かに数箇所、切り傷は見えるがそんな物よりもっと酷いもの
明らかに大人の男に殴られたであろう、歪な色をした痣

額に手を置く。瞬間、すぐに分かる熱の高さ
瞼を上げ、口を開かせ喉の奥を見る


「毒とかは飲んでねえみたいだけどよ……」

「ルパン!  早く手当てを!」

「おいおい、落ち着けよ五ェ門」


ルパンに今にも掴みかかろうとする五ェ門を、次元が抑える


「とりあえず、できるだけの処置して……あとは医者に見せなきゃわかんねえな」


取り出した救急キットで、傷を手当をしながらルパンは言う
血液を拭かれ、見えた頬は怖いくらいに色味を失っていた
彼女の肌は白と青、そして痣の色で形成されていて
彼らは言葉を失わずには、いられなかった


「ヒデェ事しやがる……」


今だ熱に魘され、苦しそうに眉根を寄せる少女の頬を
そっと撫ぜながらルパンは呟く

横から次元が、このアジトで一番綺麗な毛布で彼女を包み
それに気づいた五ェ門が扉を開けた








闇医者に連れて行き、そこの医者に少女を引き渡した
やはり医者も、見た目よりも軽い彼女に些か驚いたが
落ち着いた声で「待っていて下さい」と告げる


「にしても、五ェ門。本当にあのお嬢ちゃんどうしたんだ?」


肩口の傷を手当されている五ェ門に、ルパンが声をかけた
次元もその答えを待つように、壁に寄りかかり二人を見ている


「あの屋敷から逃げ帰る途中の、路地裏で見つけた」

「それで拾って来たのか?」


こくりと、声を出さずに五ェ門は頷いた
自分が見つけた時にはもう、箱の中で弱っていた事も
抱き上げた瞬間の言葉も、すぐに気を失った事も全て

時々、悲痛そうに顔を歪ませる


「これから、どうすんだ」


俯く五ェ門と、そんな五ェ門を見るルパンに次元がそう聞いて
パッと顔をあげた彼は、何か言いたげだった


「とりあえず、あの子の意識が戻りゃな、なぁーんも分かんないだろ」

「そうじゃねえよ。もし、あの子どもの帰る場所が無かったら、どうすんだって意味だよ」

その言葉に、五ェ門が「拙者は……」と


「拙者は……あの子を手元に置いておきたいと思う」


二人は一瞬顔を見合わせ「五ェ門ちゃん、ご乱心?」と冗談を飛ばす



「冗談などではない。真剣でござる」

「お前、それがどういう意味か分かってるのか?」



次元はそう五ェ門に問いかけるが、彼はただじっと処置室を見ている


「……路地裏に捨て置かれている時点で、帰る場所などないに等しい」

「だからってよ、俺達の下に置いておくってのもどうかと思うぞ」


不意に処置室から、先ほどの医者が出て来た
ふう、と一息つくとルパン達を見ながら、声を吐く


「高い熱だが、幸い肺炎などにはかかってない。二、三日安静にしてれば治るだろう」



外傷の殆どが打撲であることも、付け加えて彼らに告知した
治療を終えた五ェ門と共に、三人は処置室に眠る少女を見に行く
白いベッドに横たわる少女の顔は、ただの寝顔になっていた


「よっくよく見えれば可愛い顔してんのなぁー」


ルパンが嬉しそうに言うのを、五ェ門は見逃さない
ゴン、と斬鉄剣でルパンの後頭部に衝撃を与える
そこには立派なタンコブができ始めて


「早く目覚ましてくんねーかな、俺達のお姫様」


椅子をギシギシと鳴らしながら、ルパンはそう呟いた









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