刑務所を出て、待っていてくれた大介の車に乗り込む
「吹っ切れたみたいだな」そう笑いながら言われた


「やっぱりさすがルパンだね」

「おう。じゃなきゃ俺も長年相棒なんざやってねぇ」

「うん」


今後の事を聞けば、一旦アジトに戻ってそれから五ェ門とスーザンと合流する、との事
大介はスーザンも怪しいと睨んでるらしく、私に警戒しろと言った


「お前は内緒で船に乗り込ませる。俺は五ェ門といるから、女を見張ってろ」

「もし変な行動をしたら?」

「その時は何しても構わねぇよ」


そう言われて、私は自分の銃をドレスの上から握りしめた






朝になって、私と大介はアジトを後にした
車に乗って港に向う。もちろんその港は、つい先日行った場所
夜とは違ってまた、朝の港は不思議な場所だった

車から降りて、辺りを見渡せば人影がひとつ
目を凝らせばそれは、五ェ門だった


「おはよう」

「……おはようでござる」


まだ気まずいのか五ェ門は、無駄な間を開けて挨拶を返す
そんな五ェ門に苦笑いで返すと「スーザンは?」と聞いた


「……まだ寝ておる」

「そっか……船の見取り図、見せてもらってもいい?」


無言で渡された見取り図を見ながら、どこが一番の死角になるかを探す
頭をフル回転させ、それから怪しい所もピックアップしておいた
はい、と返せば五ェ門が驚いた表情をする


「もう覚えたのか?」

「うん。行き先は?」

「ザ・ロックと聞いておるが……」

「そっか。うん、分かった」



私は言いながら歩き出す。狸寝入りか、本気で寝ているか分からないけど
とりあえず、寝ていると言う情報がある時に早く潜入した方がいい
そう思って私は船に近づいた


!」



不意に名前を呼ばれて、柄にもなく心臓が跳ね上がる


「なーに?」

「その……この前はすまなかった!」

「いいよ! 私も言い過ぎたから」

「しかし……女子で年下であるお主に、あのような酷い事を、拙者……」

「……じゃあさ、この仕事が終わったら私の話聞いてくれる?」

「話?」

「うん、大事な話。五ェ門に言わなきゃいけない事があるんだ」



素直に笑える今、あなたに伝えない事がある
まだ「今」はその時じゃないから、もう少しだけ
私は笑いながら手を振って船内に足を踏み入れた







出港してからまもなく、私の耳にはイヤホンが取り付けられていた
船を運転しているのは五ェ門。その近く、船の先端で一緒にいるのが大介
そして、私は一番怪しいと思ったスーザンの部屋で、見張りをしている
船が出港してからすぐに、スーザンは目を覚ました
だけど、五ェ門に会いに行く素振りもなく、誰かと携帯で話していた


「…え………こち…のしょ……ください……。はい、それでは」


その電話が終わると同時に、私の耳に大介の言葉が聞こえてくる


『よくある事さ。純な男ほど、純じゃねぇ女に引っ掛かる』

『……だが、何故彼女を疑う?』

『いい女だからなぁ、それだけで充分よ。裏切りの理由って奴にな……ま、中にはいい女でも、まっすぐな奴もいるがな』

『女?』

『俺達の一番近くにいるだろ。いい女でなおかつ危ないくらい純粋な奴が』

『……、か』

『ああ。あいつは本当にいい女に育った。ガキん頃が信じらんねぇくらいに、な』

『まさかお主!』

『なっ! お前なんで斬鉄剣抜いてんだよ! 舵! 舵!』


そんなやり取りに、思わず照れ臭くなって笑みが零れる
今が緊急事態だって事も忘れて

何となく分かった気がした
ルパン達が、どうしていつも楽しそうにこんな場面を過ごしていたか


その時だった


バスローブを着たスーザンが、おもむろにクローゼットを開ける
何かの電子音がした
向かいの棚に潜んでいた私は、そっとその様子を伺う
スーザンが持っていたのはサブマシンガンで、明らかにその表情は極悪そのものだった


「銃を置きなさい」

「……へぇ。ルパン一味には不二子以外の女がいたのね。一体誰の情婦?」

「何とでも言って下さい。別にそんな安い挑発には乗りませんから」


彼女の頭に、銃を押し付けそう指示する
スーザンは両手を掲げて、さも面白そうに私を見た


「五ェ門が言っていた「」って言う女……あなたね」

「それがどうかしましたか?」

「思ったより上玉じゃない。もったいないわぁ、ルパン一味の僕だなんて」

「僕じゃありません。家族です」


そう言えばスーザンは高笑いをする。次の瞬間私の肩には鋭い痛みが走っていた


「っつ?! あ、あの人は……」

「よう、また会ったなお嬢さん」

「ハイ、エナ……?」



開け放たれた窓の外には、いつしか会ったハイエナがいた
彼は小型のボートに乗ってこちらを見ていて
私の肩には、彼の放ったナイフが刺さっていた


「さあ、愛しい五ェ門の所へ行きましょう? 最も、あなたが会えるのは死体の彼らだけどね!」


倒れこんだ私を起こすように、スーザンは髪を引っ張る
その痛みと、悔しさに涙が滲んだ



私は、こんなにも弱い












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