ごめんね、皆。こんなに弱くて
ごめんね、五ェ門。たくさん酷い事言って

でもね私、あなたに伝えたい事があるの


だから、まだ死ねない










薄れていた意識に、大介の声と五ェ門の声、それからスーザンの声が聞こえた
いつの間にか後ろ手に手錠を掛けられて、うまく身動きが取れる状態じゃなく
私は痛む肩を押さえつけて、這いずりながら様子を伺った



「ありがとう、五ェ門。あなたのお陰で助かったわぁ……私達の計画の最大の邪魔者、ルパンを葬る事も出来たしねぇ……あなた達の行動を先回りするのも、お陰で容易かったわ」

「っく……」

「あとはあなた達をお友達のところへ連れて行ってあげる」

「ふっ……」

「何がおかしい」

「生憎だが、そう簡単にゃあ死なねんだよ……ルパンも……俺達もな!」




そう大介が言うと、五ェ門と大介は銃撃の嵐を避けるように飛び降りる
耳を澄まし、音だけを聞いていると小型ボートが近づく音がして
船にナイフが刺さる音も響いた


「ハイエナ?!」


自分の丁度真下で、今二人が危ない
そう思った私はポールに目をつけ、流れ弾によってひしゃげたそれに手錠を引っ掛けた

これを何度も上下させれば、きっと手錠の鎖も切れる

上下させるたびに手首の皮は剥け、滑った際に手首を切り
それで血が滴るのも気にせず、私はただ手錠の鎖を切る事に専念した



ガチャリと音がして、見れば両手が自由になっていた
私はすぐに舵のある先端に行く
そこには、対峙するスーザンと五ェ門がいた



「最後に一つだけ聞きたい。そなたの語ってくれた夢、言葉に……真実はなかったのか」

「……ふっ、真実は言葉じゃないわ……真実はこれよ!」



言いながらスーザンは横飛びに銃を発射した
五ェ門はその場で飛び、見事に銃弾を避けた、けど
流れ弾までは予測していなくて

壁に当たった弾は軌道を変えて
真っ直ぐと、五ェ門を狙っていた



「危ない!!」



気づけば飛び出して
自分の身がどうなるかなんて、思いもしなくて
ただ、五ェ門が傷つかないように

だって、スーザンを見る目は、たくさん傷ついた目だったから
それ以上、傷ついて欲しくなくて

赤い水が飛び散る
肩の痛み、手首の痛みとは比にならない熱が、胸を襲う



そんな、顔して欲しくないの
あなたには、笑っていて欲しい
私を見てくれている時と同じ笑顔で、笑っていて欲しい



「前を、見て! 斬るべき、ものを、斬って!!」



そう叫べば、五ェ門は前を向く
真っ直ぐと斬らなきゃいけないものに向って、走り出す
そして、斬鉄剣が煌いた






スーザンとハイエナの敗北を悟った時、彼女の体が掠めた舵のせいで
船体が大きく揺れた
力の入らない私の体は、重力に逆らう事無なく海へと近づく



!!」



私に手を伸ばす五ェ門が見えて

ああ、そう。私がずっと見てきた目はそんな、真っ直ぐな目だった
いつだって前を見据えていて、いくら傷ついたって折れない精神を宿した
そんな、温かい目だ


「ご、……えも……ん」

!」


手を伸ばそうとしても、もう力はなくて
どう考えたって物理的に、ここから彼の手は届かない


不思議と怖くはなかった


私はあるべきところに還るだけ



「だい、すき」

?!」




あなたが、私だけに差し伸べてくれた手
あなたが、救ってくれた私
それだけで、この世に生まれてきた意味は十分にあったはず



愛しい世界
愛しい人
愛しい場所
愛しい家族に別れを告げる



海に落ちればそこは暗闇
でも、もう暗闇も怖くない

だって、いつだって瞼の裏にあなたがいるから
もう、一人じゃないから











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