漆黒の闇に包まれた港は、どこか妖艶な雰囲気で
なんだか、自分がすごく場違いな気がした

これから牢屋に入れられてしまったルパンに、小道具を渡しに行くため
私は小さな変装をしている
一度顔を見られている時は、そのままで行くと危ないと教えてくれたのは
今、安否不明の不二子姉さん


二つの人影が見える
一人は座って煙草をふかしている。もう一人は立っていて
私はすぐにそれらが誰だが分かった
というより、待ち合わせていた、という方が正しいけど


「……にしても、この格好、動きにくい……」



変装する為に不二子姉さんに借りていた物を着て、私はそこまで歩く
おまけに足にはベレッタを隠し持っているから、尚更


「大介!」


声が届く範囲になってから、そう言った
もう片方の名前を呼ばなかったのは、わざとだ


「遅かったじゃねえか! ってお前、なんでそんな格好……」

「え、やっぱりおかしかった? じゃあ男装の方が……」


あんぐりと口を開けて、帽子までズラしてしまった大介に
私はもう一度自分の格好を見る

黒いロングドレスに薄いストール
普段は下ろしている髪もわざわざアップにして
スリットから外界に晒される足が、海風に撫ぜられてすごく寒い
ピアスが揺れる度、少し耳が痛んだ


「だって、一回あの人達には普段着見られてるから、変装した方がいいかな、て思って……」

「だからってお前……」

「そんなに変?」


私は座っている大介に目線を合わせる為、膝に手をつき屈む
すると大介が慌てて、屈むな! と


お前……」

「うん?」

「着痩せするタイプだったんだな……色々」

「着痩せ? そりゃあ普段はシャツとかパーカーばっかだけど……うーん、化粧が臭い」


一通り話すと、私はチラリと五ェ門を見た
てっきりいつもの仏頂面してるのかと思いきや、顔を真っ赤にして震えている
そのあまりの赤さに私は、会ったら絶対に文句を言ってやる! と思っていた気持ちが消えてしまい
心配になって、私は五ェ門の側に寄った


「……久しぶりだね。顔赤いよ、風邪でもひいた?」

「か、風邪などひいてはおらぬ!!」

「じゃあ、なんで顔赤いの?」

「ああ、赤くなってなどない!」


顔が赤い上に動揺しまくっていて、実に怪しいことこの上なかった
一歩近づくと、一歩離れる
その態度にまたムカッとして、私は一歩を五歩にして一気に近づいた

刹那、海風に乗って香る匂い
それは、女物の香水だった


「……ねえ、五ェ門」

「な、なんでござろう?」

「いつから女物の香水、つける趣味になったの?」


すぐに分かった
ついさっきまで、五ェ門が女の人といたってこと
それから、パズルが出来上がるみたいに次々と、今までの不可解な行動が理解できて
途端、今まで以上に怒りが頭を支配した


「そういうこと。女の人に現を抜かして、それでお金が欲しかったんだ」

「……ぬ? それは一体どういう意味でござるか」

「仲間が捕まったって言うのに、それすら放り出して! どこに行ってたかと思えば、女の人のところ?」

「……何ゆえにそこまで言われねばならぬ」


五ェ門の纏う空気が、ピリッと痛みを発する
それでも、もう止まらなかった


「大事な仲間すら放っておいて、偉そうに言わないで!」

「スーザンの何を知ってそういう事を言うか!」

「お、おい二人とも…」

「仲間より女の人を取る人なんかに、そんな事言う資格ない!!」


違う。本当は違う
こんな事が言いたいんじゃない。違うんだよ
けど、目の前で怒っている五ェ門を見ると、悲しくて、苦しくて
脳が正常に機能しない
いらない言葉ばかりが、喉を通る


「そうやっていっつも五ェ門は、女の人に騙されてきたでしょ!」

「スーザンはそのような女子ではない! には全く関係ないでござろう!!」


関係ない

その一言が深く突き刺さって
目の前が暗くなった


「……関係、ない、か」

「……?」

「分かった。五ェ門の好きにすればいいよ。私は、これからルパンのところに行かなくちゃいけないし……大介、送ってくれる?」

「あ、おう」

「……ごめんね。色々言っちゃって……っ」


真っ直ぐと私を見る目が、揺れた
その黒い瞳に映る私は酷く滑稽で
泣きながら、それでもまだ何かに縋るような私が五ェ門の目に映っていた



「バイバイ」



大介の手を引いて、置いてあった車へと歩き出す
五ェ門が、もう一度口を開くことはなかった












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