相変わらず逃亡劇は続く
途端前に人通りが出来て、私は咄嗟に目を瞑った
人の悲鳴が耳をつんざく。辺りを見回したら怪我人はいなくて


「よかったぁ……」


すると、あの携帯電話がまた鳴り出した


「五人目ぇー! 次の通り右曲がってくんなぁーい?」

「タクシーじゃねえんだ」

「ケチィ! しゃあねえ、自前でなんとかすっかぁ」


今だ緊迫した雰囲気には変わりないのに、相変わらず呑気な事を言っている

気づけばパトカーはいつの間にか、車体の周りを囲むように走っていて
あの黒い車も、横付けでこっちを見ていた
何も知らない銭形警部はその車と、車体の横に入ろうとしながら怒鳴っていた
途端、黒スーツの男に銃撃を浴びせられている
一旦は不利に見えたもの、銭形警部は見事に相手のタイヤを撃ち抜いて
黒い車はショーウィンドウに吸い込まれていった

邪魔な物が一台消え、横に並んだのは銭形警部の車だった


「とっつぁん、頑張んのも年考えてやんなよぉー!」

「わしのことを考えるんなら、素直にお縄につかんかぁ!!」

「お縄になんかついたら一生つまんねぇぜ! とっつぁんのようにな!」


そう言うとルパンは道路に出てきた、大きなタンクローリーを見つける
それに向って、ハンドルで作った投げ縄をブンブンと振り回し始めた


「ちょ……! ルパンまさか! なに考えて……ってキャアアアァァッッッ!!」

「っくうううっ!」


タンクローリーに引きずられて、車体が急旋回する
おまけに坂道を急に下ったから、車体の跳ねも異常なほどだった


「はい、ありがとぉ! 運ちゃん!」


また、携帯が鳴り出す

「ん! 五人目」

そう言うルパンの目には一つのビルが映る
屋上の大きな看板には『ALLEGI INDUSTRIAL DESIGN』と書いてあった



「あと二人でシークレットセブンも丸裸かぁ! こりゃあいい!」

「一気に行きたいとこだけど、無理だわぁ……」

「どうして?」



そうして前を見れば、見覚えのあるマンション
明らかにこのまま、そこに突っ込む勢いで
私達の叫び声が道路に木霊した


マンションに飛び込むと、そこは浴槽
しかもかなり高級感溢れる場所
そこは不二子姉さんのアジトであって、彼女の面影がいくつもある


「なんで崖なんかに向ったんだよ」

「そうだよ! 一歩間違えてたら大怪我だよ?」

「へへぇ。お陰でバァッチリ不二子ん家のバスルームよう。不二子ー? 風呂上りかぁ?」


言いながらリビングを覗くルパン
私と大介は浴槽を見る
そこにあったのは、焼け焦げて壊れたアンティーク物のステレオだった


「ルパン。そんな色っぽい展開じゃなさそうだぜ」

「どうして?」

「これ、見て」


私は浴槽の中に横たわっているステレオを掲げた
それを見たルパンの表情が、一転して険しくなる


「まさかっ!」



リビングに行けば、パソコンも不二子姉さんもそこにはいなかった
データ諸共盗まれてしまったみたいで
私達がキーボードだけ残されたデスクに近づこうとした、その時
響いたのは銭形警部の声


「おおっと、動くな三人とも……よぅし、手を挙げろ」

「とっつぁん、仕事し過ぎだぜ?」

「お前を逮捕すれば休めるさ」



銭形警部は胸ポケットから、ルパン用に改良した手錠を出しながら近づく
すると今度は玄関の扉が開いて、そこから現れたのはあの時の外人警部だった


「くそぅ、不二子に逃げられ……おう、ルパンじゃねぇか! 飛んで火にいるなんとかか!」

「今時それ、日本人も使わないよ?」



思わず余計な事が口をついて出てしまう
それが癇に障ったのか、おもむろにその刑事は胸に手をやった
瞬間、ルパンと大介の肘鉄がその刑事の胸にクリーンヒットする
私達は走り出した


「逃がすかぁ!」


銭形警部の投げた手錠は、綺麗にルパンの手首を捕らえて
ズルズルと引き摺れていかれるルパンに、思わず足が止まった
途端、さっきの刑事がこっちに向って発砲してくる


「アメリカの刑事は見境なく人を撃つの!?」

「だから、法的には撃たれておかしくないんだよ! 俺達は!」


ギリギリの所で弾を避けた私達は、そのまま階下に向って走り出した










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