テレビから、チャイニーズマフィアのボスが死んだ、というニュースが流れている
私はそのニュースを、チンジャオロースを食べながら見ていた

目の前ではルパンと大介の醜い争いが勃発している


「あ、テメ! こんにゃろ、おい! それ俺の分じゃねぇかよー!」

「お、お前こそ俺の粽一個多く食ったろうが!」

「「うううぐぐぐ…うぎぎぎ……」」



目の前で取り合われているのは、女の人でもなければ宝でもない
たった一個のシュウマイだ


「あ、テメェッ! じゃカニチャーハンもらいっ!」

「俺のカニーっっ!!」

「っもう! 二人ともいい年の大人なんだから、食べ物で喧嘩しないの! それに箸と箸とで物を持っちゃダメ!」

「ごめんなせぇ……ったく次元、いいだろ? こっちは48時間絶食してたんだからなぁ! けど、あの黄金マニアがチャイニーズマフィアのボスなんてなぁ」

「いやぁ、そんな事よりチャイニーズマフィアとマフィアがつるんでるって事の方が不思議だぜ……一口だけでも寄越しなさい!」

「やぁだねぇー!」

「……大介、私のチンジャオロースあげるから、蓮華振り回すのはやめようよ……」

「お、悪いな。じゃあ遠慮なくいただくぜ」

「……悪いと思ってるのかなぁ」



ここは、中華料理店
お腹が減ったと騒ぐルパンの腹ごしらえに来たのに、どうしてこんな事になってんだろう
私はそんな事を考えながら、桃饅頭を口に運んだ



「んまぁ、噂には聞いてたけどよ。シークレットセブンって聞いたことねぇか?」

「口に物が入ってる時は、喋っちゃダメ」

「んん!」

「ああ。西海岸の裏世界じゃ有名な犯罪結社だからな。その割には、実態が謎に包まれてるって……」

「まさか、ルパン……」

「そう、そのまさかのトップがホワンに違いねえ。ああ!」



チャーハンの乗った蓮華で大介を指したルパンは、情けない声をあげる
カニチャーハン一口くらい、どってことないでしょう、と思ったけど
そう言うとすぐに拗ねるから、私は呆れた目だけを向けていた
「なあるほどな」なんて大介もカニチャーハンを頬張りながら頷く


「ハイエナもその一人ってワケか……道理で」

「テメェ……カジノのルキノ・マルカーノ、ホワン、ハイエナ。三人だ」

「にしても、妙だ」

「何が?」

「シークレットセブンほどの組織が、沈没船漁りたあちと、ロマンチック過ぎねえか?」

「ま、俺もそれで煮詰まってるわけよぉ。にしてもさぁ……やぁっとの思いで助かったってぇのに、不二子も五ェ門も薄情なんだから、全く。ま、不二子ちゃんはいつもだけども
 五ェ門は? まだお金シンドロームなのか?」

「知らないよ。なんか用事があるって言ったきり出掛けてるから」



五ェ門の名前を聞いて、あの胸のムカムカと焦燥感が襲ってきた
私はそれを振り払うかのように、声を少し荒げて、口を閉じる意味で桃饅頭をさらに口に入れる
出かける時も口をきいてやらなかったけど、なぜかしょんぼりして出て行った五ェ門の背中を思い出した


「女でも出来たかなぁ……ったく、どいつもこいつもぉ……」


ルパンの言葉に手が止まる

ルパンの携帯が鳴って、誰かと喋ってるみたいだったけど、それすら耳に入らなくて
私の手が、震えてる。どうしてだろう、頭もクラクラする

五ェ門、今どこにいるの? 誰となにしてるの?

さっきまで怒り心頭だったはずの頭は、素直に五ェ門を求めていた
ぎゅ、と手を握れば爪が白くなる


ふと、急に周りのお客さんが悲鳴をあげて
その声に飛んでいた意識が戻される


「って、なんで二人とも銃出してるの?!」

「馬鹿! 前見ろっての!」

「え、あ。あの人達……」

「知ってるのかい、?」

「うん。船でこそこそしてた人達だよ」

「なんでそれを早く言わねぇんだ!」

「だ、だって、別に何もされなかったし……」

「今されてる最中だろうがっ!」


そう大介が叫んだと同時に、カップの割れる音がした
黒スーツの二人組は、その音に気を取られて
その隙に、私達は窓から飛び降りる
頭上で銃声が響いた

下のダストボックスに着地して、私は体にくっついたゴミを取り払う


「誰だアイツら!」

「CIAかFBIだろぉ?」

「なんで人の平和を守る人達が、私達を狙うの?!」

「いや、、俺達もとりあえず悪党だ」



大通りに出ようとした瞬間、早くも店から出てきた黒スーツの二人組に銃で撃たれる
間一髪でそれを避け、逆方向に走った


「あんな目立つ格好してるからさぁ! 次元、! アレに乗るぜぇ!」

「マジかよぉ! あの鈍亀馬車!」

「すぐに追いつかれちゃうよ!」

「なぁに、なんとかするさぁっ!」



そう言って少しだけ走るスピードを上げて、私達は目の前を走っていたケーブルカーに飛び乗る
銃を持った男の人二人と、よく分かんない私が飛び乗ったせいで
乗っていた乗客の人達は悲鳴を上げながら、続々と降りていく
気づけば後ろから、黒の車がこちら目掛けて発進していた



「っ金が欲しいなら銀行行きな! ここには小銭しかねぇよ!」

「運転手さん、危ないっ!」



そう私が叫んだと同時に、後ろの車から銃弾が飛んでくる
屈んで弾を避けた。運転手さんを見れば、ギリギリ当たっていないようだった

「私達、強盗じゃないです! ちょっとワケありで……危ないから下車して下さい!」

そう説明すれば、すごい勢いで首を振った運転手さんは横から道に飛び降りた
そうこうしている間に、車はケーブルカーの前に回りこむ


「ほーら、やっぱり追いついちまった」

「だぁから、鈍亀の紐を……!」


言いながらルパンはケーブルカーの紐を撃ち抜いた
途端、安定した物から離された車体は、急激にスピードを上げて
前の車をふっ飛ばし、そのまま突き進んでいく

黒い車からは、止む事のない銃弾の雨が降り注ぐ
大介が改造してくれて、私でも撃てるようになったベレッタを握って
私は車体の横から黒い車に向って、弾を発射した

すると、こんな非常事態にも関わらずルパンの携帯が鳴り始める


「なんだぁ、また女かぁ?」

「ちゃうちゃうちゃうちゃう! 蒔いといた種が、やっと芽を出しただけよぅ」

「種?」

「……この先かぁ」


そう言うルパンの目線の先には、市長の選挙事務所があった
目標を確認したルパンは、面白そうに声を上げて笑う



「一人ではしゃいでないで、説明してよー!」

「ふふへへへ。カジノ船からとんずらする時になぁ、金の行き先で手がかりを掴めるかと思ってよ、札束に振り掛けといたのさ、のペイント弾を」

「あ、だから、新しくペイント弾を開発する時に微弱の電波を発するようにって言ったんだ」

「そういう事!」



私が納得していると、後ろで大介が待ったの声をかけた


「カジノの金が市長に流れてるって事は……!」

「ピィーンポォーン。市長もシークレットセブンってワケだよ」

「ええ! でもあの市長さん、次期大統領狙ってるんでしょ?!」

「金が必要なワケだぜ。裏世界初の大統領なぁーんて無茶をやろってんだからなぁ」

「後ろのお二人さんもそれ絡みか?」

「だと分かり易いんだがなぁ……ありゃりゃりゃりゃりゃー!!!」



奇声を上げるルパンの視線を辿って、私も市長の事務所前を見る
すると、見る見るうちにパトカーが溜まっていって
その中の一台から、銭形警部が顔を出した
しかも他の警官も出てきて、あまつさえか銃を構える


「撃てぃ!!!!!」


銭形警部のその声が響くと、前からも一斉発砲されて
車体の一部分達が、どんどん飛ばされていく


「ったくとっつぁんたら、アメリカ流に染まっちまってぇ……次元、なんとかしてくれよう」

「あいよ」


そう言って大介は一発だけ弾を籠めると、レールの車線変更の機械を撃ち抜いた
曲がれなくなった車体はそのまま、パトカーの中心に突っ込んでいく
慌てふためく銭形警部や警官が散っていって
私達はそのまま、ビルの中に突っ込んでしまった


「うひょおぉー。昔懐かしのパニックもんみてぇ! あ、ほらほらほら黒黒黒!」

「俺は紫!」

「こんな時までスケベ心出さないでよ!」


女の人のブラジャーを握るルパンの頭を叩く
すると、もはやケーブルカーの姿をほとんどしていない車体は、見事に外に脱出しまたレールの上に戻った
けれども束の間、すぐに後ろから警察の大群が追いかけてきた




「なんでこんなにしつこいの!!!」












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