ソファに横たわって機械を弄るルパンの頭上には、大介と不二子姉さんが様子を見ていた
私は、とりあえずルパンの足元にいる五ェ門に話しかけた


「五ェ門」

「なんだ」

「やっぱり何かあるでしょ?」

「……何故、そう思うでござるか?」

「昨日からちょっとおかしいし、さっきもあり得ない事言うし……」

「申したであろう、悟っただけにすぎんと」



でも、そう言いかけた時、このアジトには絶対に鳴らないノック音が部屋に響いた
ハッと、皆の顔が強張る
五ェ門が斬鉄剣を構えて、私をソファの後ろに隠してくれた

次の瞬間、銃弾の嵐が私達を襲ってきた

五ェ門は扉から死角になる壁に、不二子姉さんはお風呂場に続く扉の裏に
私とルパン、大介はソファの後ろに隠れている
銃弾の嵐はまだ止まない



「ったく、これだからマフィアはぁ……」

「お行儀を知らねぇ坊や達には……!」



そう言って大介はソファから飛び出し、愛銃であるマグナムで外にいるであろうマフィアを撃つ
大介の撃った弾は当たり前のように、外にいる人間に命中して
一瞬、弾の動きが止まる


「今だ! ズラかれ!!」



その大介の声に反応して、立ち上がった私が見たものは
銃で穴の開いた扉から、投げ入れられる手榴弾だった



「うそっ……!」



五ェ門は咄嗟にお風呂場に逃げ込んで、大介は反対側の窓に、私はルパンと同じ窓から外に出た
横を見ればルパンは、窓のサンを飛び越えて下にバンジージャンプをしている
命綱はもちろん見えない



「ルパン!!!」

「ふあああああああああっっっー!!! 死ぬーっっんなんてね!」




いつの間に仕掛けたのか、ルパンはゴムのような糸にぶら下がっていて
揺れが大人しくなると、その糸を外して地面に着地する
大介が中の様子を窺っていて、私はルパンの動向を見ていた



「っはぁ、派手な事しやがるぜぇ……」

「ルパンー! 大丈夫ー!? 怪我してないー?」

「大丈夫だよー! の王子様、このルパン三世は無事ですよぉー!」

「軽口叩けるなら平気だね……」

「ったくぅ……あったまより力で来る連中を相手にすっと、大変だわなぁー!」

「え! ちょっと待って……あの人!」




ルパンの後ろから見知った人物が出てくる
それは、昨日襲撃した船の主。マフィアのドン
前からは銃を持った部下らしき男達も出てくる

どうしよう、どうすればいい?

慌てふためく私をよそに、会話は進められていて。ルパンが手首に仕込んだテグスもバレてしまった
一言、二言交わした瞬間男の指がトリガーを引いて
出てきたのは弾ではなくガス
それを嗅いだルパンは、前のめりに倒れこんだ


「あ……! ルパン!」


そう小さな悲鳴をあげたと同時に、部屋の中に別の足音が聞こえる
二つの足音の正体は、銭形警部と外人の刑事だった


「なんだぁ、これは」

「戦争でもあったのかい!」



途端に銭形警部が何かに気づいた
私もそちらをもう一度見る。すると、見知らぬ車がやって来て
その中にルパンを運び入れているところを目撃して、絶句してしまう



「ルパン?! このぉおおお!」

「あ、おおい! どうした!」




慌てて駆け出していく銭形警部を見送って、お風呂場から不二子姉さんと五ェ門が出てきた
不二子姉さんと五ェ門の声に反応して、大介が中に入る
私は五ェ門が差し伸べてくれた手によって、部屋に戻った



「はっ! 潔癖症のとっつぁんがか?! 」

「それより皆! ルパンが!」



そう言って私は窓の外を指さす
皆が窓の外を見た時にはもう、車が発進した後だった



「おいルパン……」

「昨日のマフィアのドンに連れて行かれちゃって……どうしよう!」

「どうすんのよ! データは! お宝のデータ!」

「ちったぁルパンを心配をしろよ!!」

「いや、宝だ」



その言葉にこけた私は、窓の下に貼ってあったメモリーカードを見つけた


「大介……これ」

「これは……」

「さすがルパン! データの入っているメモリーカードは置いていってくれたのね!」

「っでは、それがあれば……!」



私が持っていたメモリーカードを手に取って、不二子姉さんが喜ぶ
それを見た五ェ門も、そのメモリーカードに視線を移した



「ええ、お宝はバッチリゲットよ! ああ、ルパン……ありがと」

「お主の意思……きっと継いでみせる!」

「ったく……お前らは……」

「そうだよ! ルパンが攫われちゃったんだよ?!」




ルパンを心配してるのは、私と大介で
目の前の二人は既に皮算用を始めていた
そんな二人に私は、なんだか悔しくなってしまい
それからくる涙を堪えながら言った




「大丈夫よ、ルパンなら。一人で脱出くらいワケないわよぉ」

「左様」

「左様。じゃないよ!! 不二子姉さんはいつもの事としても、五ェ門まで! やっぱりおかしい!」




その言葉に不二子姉さんが失礼ねぇ、と文句を言っていたけどそんなの気にしてられない
目の前で怒り狂っている私に、驚いている五ェ門に詰め寄る


「やっぱり絶対におかしい! 何があるの言って!!」

「だから、拙者は何もないと」

「ウソ!! 分かるんだから! 五ェ門嘘吐けないでしょ!」

「拙者、嘘など言っておらぬ……」



私の顔を見ないで、気まずそうに目を逸らす
そんな態度しか取ってくれない五ェ門
本当の事を話してくれない五ェ門に、ますます涙が溜まってきて



「……じゃあいい。もう知らない」

……?」

「私と大介だけでルパンを助けに行く」

「何を! 女子のお主にルパンを助けに行くなど」

「危なくても行く! それに、私が作ったGPSでルパンの居場所も分かるし、大介がいれば私の身も安全だから!」




嘘吐きで、意地っ張りで何も言ってくれない五ェ門なんて知らない!
そう言ったら、我慢してた涙がボロッと溢れて
周りの皆が一瞬、驚いた顔をした


「行こう大介! 早く!」

「お、おう」


帽子を押さえる大介を引っ張って、私はボロボロのアジトを後にした
残されたのは、メモリーカードを今だ眺める不二子姉さんと
私の涙に呆然とし続ける五ェ門だけだった












NEXT