その日のお昼は急にカレーが食べたくなったから、私はキッチンで昼食のカレーを作っていた
すると、不二子姉さんの怒声が聞こえてきて
私はまたルパンが今回の失敗でどやされてるんだろうな、なんて思いながら
トレーに皆のカレーと、五ェ門用のカレーうどんを乗せて隣の部屋に行った


「二ヵ月あったらいい男だって、恋して結婚だって出来ちゃうのよ!」


扉を開いたら、まさに不二子姉さんがルパンに飛び掛りそうな所で
私は横に座って瞑想している五ェ門に声をかけた


「いつからあんな調子?」

「かれこれ三十分ほどばかし、ああしておる」

「私がカレー作り始めてからか……。あ、五ェ門は和食だけだからカレーうどんにしたんだけど、食べられる?」

「かたじけない」

「いえいえ」



言いながら私は五エ門に、うどんの入った器と箸を渡した
熱いから気をつけてね、と言えばああ、とだけ返ってくる


「子どもは出来ねぇけどなぁ」

「ふざけないで!!」

「はいはい、喧嘩やめて! お昼出来たからさ、冷めないうちに食べてね」

「おお、今日はカレーか。それとルパン、いい加減話してやれよ」



大介が新聞からこっちを見て、そう言った
その言葉に不二子姉さんが「何を?」と首を傾げながらカレーと大介を交互に見る
ルパンは机に置いたカレーを「美味そうだんなぁ」と眺めた


「はい。熱々だから気をつけてね」

「ほい! んじゃあ、いっただきむぁ〜す!!」



スプーンを渡した途端、すごい勢いでカレーを食べるルパンに近づきながら、大介が言う
扉の方を見れば、五ェ門もうどんを食べていた



「船でコソコソやってた趣味。どうせ本当の狙いはそっちだろ?」

「はい、大介も」

「悪いな」



大介が立ちながらカレーを食べ始める
私が不二子姉さんにもスプーンを渡すと、不貞腐れながらカレーを食べ始めた
「あら、美味しいじゃない。どこのスパイス使ったの?」とすぐに機嫌を直してくれたけど


「さっすが相棒。分かってらっしゃること」


一通り食べ終えたルパンがお皿を置いて、そう大介に言った
不二子姉さんはダンッ! とお皿を置くとルパンの胸倉を掴んだ


「んもう!! また騙したの?! 早く言いなさいよ!!」

「うぎぎ……言う言う言うっ」



カレーを食べ終えて、ルパンと大介、不二子姉さんはソファに行く
私は皆の食器と五ェ門の器を受け取って、キッチンへ運びに出た
すぐに戻ってくると、ルパンはあの時の携帯電話みたいな物を弄っている



「あ、それってサンフランシスコ沖の海底図?」

「カジノ船がなんだって、んなモン作んなきゃなんねんだよ」

「んふふふふふ、まぁその辺が今回の計画のミソってワケ」

「だぁかぁらぁ!! それとお宝がどう繋がるのぉ?!」



不二子姉さんはルパンの肩を掴んでガクガクと揺さぶる
上下左右に揺れ動きまくるルパンの頭を、私と大介は呆然と見ていた


「んもう、せっかちなんだから。不二子ちゃんってば」


首が痛むのか、後ろ首を押さえてルパンがげんなりした表情になる
けれど、あの携帯電話みたいなのをもう一度弄り始めた途端
またオモチャを見つけた子どもみたいな顔になった



「つまりだなぁ……あの船は二重に化けてるってワケさ。表向きは豪華客船のフリをしての非合法カジノでマフィアの金を稼ぎ……
 そのもう一つ裏でサンフランシスコ沖の海底調査をしてたって、ワケさ。もちろん、より一層儲ける為にな」

「要するに、ルパンの本当の目的はこっちの海底図で、カジノのお金はついでだったってこと?」

「そういう事」

「なあに! じゃあ、ついでの為に二ヵ月も働いたってワケ?」

「こだわるねぇ、不二子ちゃんも。二ヵ月に見合う以上のお宝ならいいんでしょ?」



ルパンがしてやったり顔で、不二子姉さんを見た
不二子姉さんは本当? と喜びながらルパンの首に手を回す
そのままルパンに抱かれる形になって、大介は呆れたように少し距離を開ける
私はそのやり取りを苦笑いで見ていた



「深き海に眠れる美女……それも金色に輝くな」

「ゴールド?」




不二子姉さんの言葉に、なぜか五ェ門が反応したような気がした
珍しい事もあるな、と思いながら五ェ門を見ると
まだ瞑想中らしく、目を瞑ったままだった

なんだかルパンが難しい話をしだしたから、私はそのままじっと五ェ門を見ていた
すると、そんな私の視線に気づいたのか、五ェ門が片目を開けて

バッチリと目が合った
逸らすのも気まずかったので、とりあえず笑ってみる
そうしたら、なんでか五ェ門は照れたようにまた目を瞑ってしまう


「で、皆さんは乗る? この話」

「当然!」

「シルバー船長はガキん頃のアイドルだったからな」

はどうする?」

「なんか面白そうだから私もやる」


パッと皆の方に向き直す


「五ェもーん……はあんまり興味無ぇか? ただの宝探しじゃなぁ……」


ルパンがうな垂れた瞬間、五ェ門が立ち上がった



「いや……是非とも乗らせてもらおう。金があっての人生だからな」

「なにぃっ!」

「どーしちゃったの五ェ門ちゃーん」

「もしかして、さっきのうどんに変な物入ってた?」

「悟っただけにすぎん。生きる為に金が必要だとな」

「それって悟るようなもんなワケェ?」

「ああ、明日は雪かな?」



五ェ門は「なんとでも言え。悟ったからには金一途……」と呟く
やっぱりこの前といい今といい何かおかしい
何かが絡んでない限り、五ェ門がこんなこと言い出す筈がない
心配そうに五ェ門を見れば、今度はバツが悪そうに顔を逸らされた



「とにかく、どうする? これから」

「ま、コイツを分析してからだな。もっとも、マフィアの連中も捜査中って事はぁ……」

「沈没した位置が、まだ掴めてないんだ」

「出来てても、手が出せねぇ理由があるって事か」




開いている窓から、花火の音が聞こえた
外では何かのパレードが始まったみたいだった













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