どこからか、銃の音が聞こえる
その音を聞いた乗客達が慌てふためいて我先にと逃げ戸惑う
そんな人達を、皆の邪魔にならないように誘導するのが今回の役目
船員の制服のボタンが閉まっているのをもう一度確認して、私は声を張り上げる


「皆さんこちらです! こちらの緊急用出口から外に非難して下さい!」


あらかじめ教えられていたルートに、差し障りない道を教える
身の危険を感じている人間は、この言葉に素直に反応した
あっという間にカジノの中には数人の船員だけになって
そのどれもが、マフィアの部下なのだけれども
私はそっと、柱から柱に渡って皆のもとへと急ぐ


「ルパン!!」

「おお! !! お勤めご苦労様〜!」

「ちゃんと乗客の人は避難させたよ! 大丈夫だった?」

「ああ、もちろん!」



地下通路に見知った背中を見つけて、走り寄った
そこにはもう大介や五ェ門、不二子姉さんがいて
どうやら一番最後の私を待っていてくれたようだ


「待たせてごめんね」

「いんや、いってことよぉ」

「ああ。それに今回は格段急がなくてもいい仕事だしな」

「さぁて、頂きましょうかねぇ〜お宝を!」


そのルパンの一言で、私達は走り出した










Alcatraz connection










『警備室! おい、聞いてるか? ルパンだ! ルパン一味が侵入してる!!』



聞き慣れた怒声が部屋に響く。その声は銭形警部の物だ
モニターの中に映し出されている彼は、きっとこの警備室が既に占拠されている事をまだ知らない

そんな銭形警部を見て、悪戯をする男の子みたいに嬉しそうにするルパン
横から不二子姉さんが早く行動に移せと、急かしている


「五ェ門?」

「何用」

「さっきから、いつもより倍の皺が眉間に寄ってるけど……どうかした?」


扉の横に立つ五ェ門の顔を覗きこんで、そう聞いた
普段も無口で無表情な五ェ門だけど、今日はその無表情にすごい皺が加わっていて
他の皆は特に気にしていないようだけど、どうしても私は気になってしまって
思わず聞いてしまった


「特に理由などない」

「……そう?」

「ああ」

「なら別にいいけど……五ェ門、すぐなんでも溜め込んじゃうし、自分ひとりで考え過ぎちゃうから……何かあるなら相談してね?」



そう言ったら少しだけ五ェ門の目が揺れた
何か言いたいような、それでも何かに押さえつけられてるように
でも、本人が大丈夫だって言ってるのに、心配し過ぎるのも悪いかな、と思って
それ以上深く追求するのをやめた



「ったく……これだから年を取ると……」

「何か言った?」

「いんや、別に?」



いつの間にか横に来ていたルパンが、ボソッと呟いた小言
それに不二子姉さんが怒りの一言を飛ばす
ルパンは屈んで、床に白い円を書いた


「五ェ門……頼むわ」

「うむ。、危ないから下っていろ」

「うん」


そう言って五ェ門は斬鉄剣を抜くと、白い円の中に立ち一瞬でその場を斬ってしまう
ズズズ、と鈍い音がしたと思った次の瞬間には
五ェ門は下の金庫に吸い込まれていた

不二子姉さんがその穴に飛び込み、そして中のお金を確認する
大介が立ち上がり、私もついて行こうと思って前を見ればルパンが何かもぞもぞしていた


「何やってんだ、ルパン」

「いやまぁ……ちぃっとな」

「携帯電話、じゃないよね。それ」


私は後ろからルパンが弄っている機械を覗く


「まぁた何か企んでやがんのか?」

「趣味よ趣味。ほんの、な」

「ふん。とっとと追っかけて来いよ。怖いパパが来ねぇうちにな。ほら、行くぞ

「あ、うん。ルパン、それ後で貸してね」

「どーして?」

「面白そうだから」

ちゃーん、これはオモチャじゃありませんよぅ〜?」

「いいから! じゃあ早く来てね!」


そう言って手を振れば、ルパンは片手を挙げた
私は先に外に出た大介の後を追って、廊下に出る
少し先に大介の背中を見た。早く行かなきゃ、そう思って走ろうとした時
目の端に動くものを捕らえる

振り向けば、黒いスーツに黒いサングラスのどう見ても怪しい人間がこちらを見ていて
私に気がついて、慌ててその身を隠した


「……なんなんだろ、今の人達」


逃げ遅れた乗客だろうか、と私はその場であまり気にせずに、目の前の遠くなる大介の背中を追った





ヘリポートに出ればルパンが銭形警部を乗せていた。少し先にこの船に来る際に使ったヘリがあった
大介はそれを見てから胸ポケットにあるリモコンで、例のアレを始動させた
例のアレとは、船から逃げやすくする為の道具であって
ずいぶん前に、ルパンに「海の怪物ってどんなの想像する?」と聞かれて、私が描いた絵
それがものの見事に具現化されて、今、船首で暴れまわっている


「ウツボを描いたつもりだったのに……」

「ありゃ、どう見てもウツボじゃねぇだろ。とにかく乗れ」

「うん」



私のウツボと、マフィアが銃撃戦をしている間に金庫ごと盗む予定だ
慌てて大介とは反対方向からヘリに乗り込んだ
ついさっきまで動いていたエンジンは、あっと言う間に温まってすぐにプロペラを回し始める

どんどん上昇する高度。周りの景色も海から夜空になる


「うわーすごい綺麗! 星が近くに見えるよ! ……あ、銭形警部だ」

「もう気づいたのか?」

「どうだろ、見えてるのかな?」


そう大介と会話をしていると、プールに水柱が立ち底が割れて水がどんどんなくなっていった
大きな穴がポッカリと開いてそこから金庫の上部が見える
その上部には五ェ門と不二子姉さんがいて、こっちを見ていた
金庫の真ん中に、ヘリに格納されていた巨大磁石がくっつく
それと同時にルパンも、そこに現れた


『いいぞぉ、次元』


ルパンの合図と共に、ヘリは金庫を上げ始めた
金庫の上に立つ皆の髪が、潮風とヘリが巻き上げる風に揺られている
ふと、銭形警部の方に目をやると、銃を構えていて
一発の弾が、吸い込まれるみたいにウツボの目に向っていった

ウツボの目から涙の代わりに、空気が出ていく


「私のウツボ……撃たれちゃった」

「だから、あれはどう見たってウツボじゃねえよ」

「ウツボ……あ、銭形警部、今度はこっち狙ってる」



なにぃ?! と大介が言うか早いか、銭形警部が撃った弾は直線を描いてルパンに向かっていった
間一髪、頬を掠めたと思ったら後ろの巨大磁石のケーブルを、見事に撃ち切っていて
磁力がなくなったせいで、金庫がみるみるうちに落下していく


「わぁ!」

「おう!」



いきなり軽くなったヘリの機体は、大きく揺れて下の縄梯子も左右に振られる
体勢を整えて、下を見れば叫び声を上げる不二子姉さんと堪えている五ェ門
それからこの前私が開発した小型ペイント弾を、金庫の中に投げ込んでいるルパンが見えた




「お帰り、皆。大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよう! せっかくのリンカーンの団体がぁ!!」

「大丈夫だ。も怪我はないか?」

「うん、大丈夫だよ。ルパンは頬、怪我したみたいだね」

「ああ、とっつぁんもやってくれるぜ」






息も絶え絶えな不二子姉さんと、至って変わらない二人がヘリに乗り込む
大介は旋回して、アジト近くのヘリポートを目指した









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