彼女が話し終わると、ふたりの間にゆるやかな沈黙が流れた
病魔がなぜ彼女を蝕んでいるのか、そしてどうして治療を拒んでいたのか知った今
派出須は何もできずにいた

今までの人たちは、みな病魔によって苦しんでいた
本人がよくても、その影響が周りの人たちに害を及ぼしていた
だからこそ、その苦しみから救ってあげたくて冷血に病魔を食わせていた

だけれども、救いたいと思う目の間の彼女は、病魔によって救われていると本人が言う
またそのせいで一見、他の人には害を及ぼしていない
それでも自分は、彼女の病魔を治療すべきなのか。派出須はぐるぐるとした思考に組み込まれていく


「……その、ご両親やお兄さんの婚約者の方は、今……」

「分かりません」

「え……」

「時々手紙がきてるみたいです」


窓の方を向いたまま、は言う
そして「一度も、開いた事はありません」と続けた


「話、聞いてくれてありがとうございました」


俯いていた顔を上げれば、派出須の目には笑った顔のが映る
愛想笑いでも、無理矢理に作った笑顔でもない
何も感じられない、まるで無表情のような笑顔だった

誰も寄せつけないよう、自分の心に壁を作って踏み込ませないような
そんな笑顔で、彼女は彼に礼を告げる


その後ろで、苦しんで泣いている彼女が、派出須には見えた気がして
ようやく彼女が、何を求めているのかを悟る


「どうして、そうやって諦めるんですか」

「諦めるって……」

「本当は、助けてほしいんでしょう?」


彼の言葉に、笑顔が凍る
指先からじわじわと冷たくなるのを隠すように、は布団を強く握った


「いつまでひとりで抱え込むつもりなんですか」

「そんな事、あなたに関係ないです」


の口調が、やや強くなる


胸中がざわつくのを、は感じていた
それを必死になだめようとする自分と、抗えない自分がいて
今までずっと無意識に隠していたものに触れられて、動揺している自分に気がつけないでいる
だからこそ、なぜ自分がこんなにも落ち着かないのか彼女は分かっていない


「そうしていつまでもひとりで抱え込んでいたら、いつかあなたの心が壊れてしまう」


派出須の言葉で、の脳裏に情景が蘇った

白黒の背景に、たくさんの花と笑っている兄の顔
すすり泣く声、自分を慰め励ます声
荷造りの途中だったいくつもの箱、持ち主のいない部屋
定期的に届く、内容の分からない手紙


「……壊れたっていいんです、こんな心。兄の死の代償にもならない」

「そんなこと」

「帰ってください」


彼はその後に続ける言葉を、発せられなかった
今にも泣き出しそうな顔のが、見えない目でまっすぐと彼を見ていたから


「助けてくださったのは感謝しています。やっぱり、治療は必要ないです。もう……私のことは、忘れてください」























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