仕事から帰って、いつものように郵便受けを探る
何かに触れて、それが封筒である事を理解した
何度も何度も送られてくるそれに、返事をした事は一度もなくて
それでも構わないと言っているかのように、定期的にそれはやってくる

目が見えなくなって、雰囲気や音である程度の事は分かっても
やはり物理的に見えない物は、どうやっても見えない訳で
送られてくるこれを読めた事は一度もない。けれど、理由はそれだけじゃない事も、自分で分かっている


怖くて、読めないんだ

自分が悪いと分かっているのに、もしも責められるような文字が並んでいたら
そう思うと封筒を破り捨ててしまいたくなる
けれども、自分の感情に従って手紙を破ってしまえば、今度こそ本当に私は許してもらえないだろう


封筒を鞄にしまって、家を後にする
吹く風が冷たくて泣きそうになった










巡り廻る中で、もう一度










歩き慣れた街中。人が一番少ない今の時間帯は、見知った人ばかりだから安心する
ほとんどの人とは目が見えなくなる前からの面識だから、会えば声を掛けてくれる
耳でその人の場所を探して、笑顔で会釈をして
そうして歩いて、歩いて、なんの目的もなくただ歩く


「あれえ、もしかしてちゃん?」


聞き慣れない声に、肩があがる
後ろから近づいてくるそれは、久しく感じていない雰囲気だった


「久しぶり! 私のこと覚えてる?」


無邪気にそう聞かれるが、その声に覚えがない
思い出すための顔も今は見えない。どうしようと戸惑っていると、相手のまとっている雰囲気が少し変わった


「え、ちゃん、だよね?」

「う、うん……」

「なんか変わったあ?」


悪気のない言葉に、苦笑いしか出なかった
そんな自分に嫌気がさしつつも、そうかな、と曖昧な返事だけをする


「一昨年の同窓会以来だよねぇ、そうそうこの前ね」


そのキーワードで彼女が高校時代の同級生だという事が分かった
クラス全体の仲は悪くなかったけれど、おそらく別格仲のよかった子ではないだろう
今でも連絡をしている数人の友人は、私の目の事を知っているから

「ああ、そう言えば……」

がらりと、今度こそ私が恐れていた雰囲気が訪れる
できればなんとかして、探られないようにしたい。でも、今の私はそうするための手段を持ち得ていない
一瞬たっぷりと空けられた間、おそるおそる口を開こうとする目の前の彼女が脳裏に浮かぶ

見えない目を、瞼で覆うとした時
暖かい風が吹いて、それから彼女の小さい悲鳴みたいな物が聞こえた


「あの……」

「じゃ、じゃあまたねちゃん!」


聞き覚えのある声の後に、彼女が別れを告げる声が聞こえた
背中の方から感じるそれは、まるで天の救いにも思えたし逆にも感じられた



「またお会いしましたね、さん」




教えていない筈の名前を言われて、私は観念したように振り返る

もう二度と会わないだろう、そう思った人がそこにはいた





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