柔らかい陽射とやさしい風が吹く、まさにのどかなという言葉がピッタリな日だった
彼はいつものように、生活に必要な物の買出しに行った帰りだった
その日は珍しくも休日であり、時間もあった事から普段通らない道を通っていた
はしゃぐ子どもの声、公園の横を通り過ぎる時にそれを感じた
「……病魔の気配?」
平和そのものの公園の中から、僅かながらに病魔の気配を感じ取る
入口で立ち止まり、キョロキョロと中を見回す
その様子に公園内の子どもやその親たちは、不審者を観察する目で彼を見た
いつもの事だと、自分に言い聞かす
罹人になってからこんな事は日常茶飯事だった
人から奇異の目で見られ、怖がられても病魔に憑かれて困っている人を助けるために、と
それでも、こういった視線や態度に慣れられるものではなく
彼が俯きがちになった時、一際病魔の気配が濃くなった
「どうかしましたか?」
そう言って、彼の前に立つひとりの女性
彼が顔を上げると、そこにはどこか遠くを見ている彼女がいた
派出須の中の冷血が、ざわざわと騒ぎ始める
「え、いや……その、あなたは……」
「なにか困っているようでしたから」
にこり、と。愛想笑いでもなく、苦笑いでもなく到って普通の笑顔で彼女は言う
「あの……僕の顔、怖くないんですか?」と彼が尋ねると、彼女は笑みを少し隠して答えた
「すみません。私、目が見えないんです」
それに、と彼女が言葉を続ける
「声と雰囲気で分かるんです。たとえあなたが怖い顔をしていても、すごく優しい人だって」
だから気にしないで下さい、とまた笑う
病魔の事を刹那、忘れるほどに花のような笑顔で自分に笑いかける彼女に、派出須は胸を掴まれた
それが、派出須との出会いだった
君のいない世界
NEXT